ESG(環境・社会・企業統治)は、業種や時間軸の広がりだけでなく、多様な業務分野にかかわり非常に多元である。しかも、それが日々拡大し、深くなっている。膨張するESGから生じるリスクに対応できる体制と戦略はあるのか、と問うてみる必要がある。リスク管理の手法といえば「デリバティブ」がある。ESGに適用する「ESGデリバティブ」を原因別対応策別などの視点から考察してみよう。今回は【第5回】「ESG店頭デリバティブ入門」である。

デリバティブは店頭取引が中心~店頭デリバティブ概観

日本の主要ディーラーが行ったデリバティブ取引の残高を2020年以降の想定元本でみると、店頭取引が取引所取引の約10倍となっている(日本銀行金融市場局「デリバティブ取引に関する定例市場報告の調査結果(2022年6月末))

実際、世界のほとんどのデリバティブは店頭(OTC)で取引されている。

限月など期限や残存期間の制限が無く、取引数量、条件など取引をカストマイズできることなど、店頭取引には周知のメリットがあるからである。

世界の店頭デリバティブ取引の残高構成比を添付の図表でみると、2000年代リーマンショック前後で金利関連が急増した。続くのは為替で、その他は少ない。最近時も、金利関連取引が85.2%と最大のシェアを占めている。このほか、外為関連取引、クレジット・デリバティブ(CD)、エクイティ関連取引のシェアはそれぞれ13.7%、0.8%、0.3%となっている。

ちなみに金利・外為関連の商品別内訳は、金利関連取引では、金利スワップが83.4%と最大のシェアを占めている。外為関連取引では、フォワード・為替スワップのシェアが57.1%と最大である。

【図表】店頭デリバティブ取引高残高(兆ドル)の推移
店頭デリバティブ取引高残高(兆ドル)の推移
出所:『金融先物取引業協会会報』132号(2022年4月)
※BIS(国際決済銀行)がG10+2の12ヵ国(オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、スペイ ン、スウェーデン、スイス、英国、米国)の主要銀行を対象として半年ごとに調査する世界の店頭デリバティブ取引残高(想定元本ベース)

ESGデリバティブの特徴

さて、ESGデリバティブであるが、ESGは多種多様で、単一商品としてまとめるのは困難であるように思われる。個々の商品が上場できたとしても、取引量が少なく、価格の変動性が高くなり、取引は益々減っていくようになる。上場商品(特にその価格)が、逆に、信頼できなくなってしまうのである。

ESGデリバティブは、その多くが市場取引で行うのは困難で、店頭の相対取引の方が適しており、店頭デリバティブになると予想される。

価格の信頼性

価格に信頼性がある限り、取引所取引に頼らなくても、店頭取引で十分である。例えば、東証で2023年10月スタートしたカーボンクレジット市場さらにその先物が軌道に乗れば、カーボンの出自・種類の違いをプレミアムとして評価すればよいので炭素排出量取引のほとんどが店頭取引で十分になるように思われる。

店頭取引の信用リスク対策

中央清算機関(CCP)における清算集中によって店頭取引の信頼性が向上した歴史がある。取引の間に入り、双方のカウンターパーティとなる主体(中央清算機関、CCP)を利用することにより、一部市場参加者の破綻による影響が市場全体に波及するリスクを防止することが可能となる。

2009年9月G20ピッツバーグ・サミットでは、標準化された店頭デリバティブ取引についてはCCPを通じて決済すること(CCPへの清算集中義務)が要請され、金利関連デリバティブを中心にCCP活用が進んだ。日本でも、2012年11月以降、金利スワップやCDSを対象にCCPを通じた決済を義務付ける清算集中義務が順次適用されてきた。

CCPとの取引が少なく、ディーラー間取引が多い外為がそうであるようにCCPは必ずしも必須ではない。しかしながら、外為取引は数限られたプロが中心になっている。ESGデリバティブにおいては、ESG事業破綻要因の回でみたように、信用リスクは大きい。信用リスクが心配なら、取引所取引をするか保険に入るという方法がある。

辰巳憲一

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数