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日本人の外国証券運用者を育成せよ

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HCアセットマネジメント 森本紀行氏インタビュー〈後編〉

東京の「国際金融センター」化のためには
日本人の外国証券運用者を育成せよ

2018年07月09日

機関投資家を対象に資産運用サービスを展開するHCアセットマネジメントの代表取締役社長の森本紀行氏は、日頃から資産運用業界のあり方についてさまざまな提言を行っている。インタビュー後編では、東京が世界の金融センターになるための条件と、顧客本位の運用を実現するために資産運用業界がなすべきことについて見解を語った。(取材日:2018年6月4日)


HCアセットマネジメント
代表取締役社長
森本 紀行

米国株式に巨額の投資、でも銘柄選択は外国人

 日本の金融業界には、外資系のシェアが高い分野が2つだけある。1つは保険だ。過去に相次いで倒産した中小保険会社を外資系保険会社が買収したことと、当局が保険の特殊商品を外資系にだけ認可していたことがその要因だ。国内系が手掛けてこなかった商品のなかから、ガン保険のようなヒット商品が生まれて、その分野で外資系がシェアを握るようになった。

 もう1つが年金運用だ。国内の企業年金は、銀行や保険会社との利害関係で系列の運用会社が選ばれる傾向があることはすでに説明したが、年金運用は国内系運用会社だけで完結するものではない。年金のポートフォリオには外国証券が不可欠であり、外国証券の運用の主役は外資系運用会社だ。

 かつては日本の運用会社も外国証券を直接運用していて、運用能力もあった。それが時を経て、運用を外資系に丸投げするようになってしまった。日本の機関投資家は米国株式に巨額の投資をしているが、銘柄選択をしているのは外国のファンドマネージャーだ。今、日本人で米国株を運用できる人がどれくらいいるのか。

外国の発行体が「日本に来ざるを得ない理由」をつくる

 バブル期と違って、今は高度な情報社会だ。インターネットでほとんどの情報を取得できるし、米国企業のIR(投資家向け広報)も動画で生配信される。電話会議で米国のCFO(最高財務責任者)と英語で話すこともできる。日本の運用会社が自ら外国証券に投資し、その資産規模が世界有数になれば、世界中の発行体はロードショーやIRのために東京に来る。来ざるを得ない。そうなって初めて、東京は国際金融センターの地位を獲得する。東京都の小池百合子知事が「国際金融都市」という構想を打ち出しているが、外国企業が日本でIRミーティングを行うメリットがない現状で、東京都がどれだけ議論しても何の意味もない。

 私が若い頃には、多くの日本人投資家が米国企業の株式に投資し、社債も直接買っていた。だからロードショーが東京でも連日のように開かれていた。高級ホテルの宴会場とスイートルームは外国の金融関係者で満室になった。日本人が米国のCFOと直接話せる機会にも恵まれていた。バブル期の東京はグローバルな金融市場だった。

 国際金融センターの典型的な成功例はロンドンだ。英国の首相だったサッチャーが起債市場を立ち上げて、世界の発行体がロンドンへ行かなければならない理由をつくった。だからロンドンに人と情報が集まり、地価が上昇した。

 今の東京では米国企業のロードショーはほとんど行われない。このような環境を変えなければ、東京は国際金融センターになり得ない。東京の活気を取り戻すためには、以前のように日本の運用会社が外国証券を自ら運用すること、そのための人材を育成することが重要だ。

 外国証券の運用を、今は社内ではできないから外部に丸投げするのは仕方がない。その一方で、今できることを広げていく努力は続けなければいけない。運用を外注しながらも、いつかは自社で運用できるように人材を育てていく計画が必要だ。フィデューシャリー・デューティーのなかにも書かれているはずだ。

 外国の発行体企業を東京に呼ぶためには、制度の改正によって参入障壁を低くすることも必要だと考えている。例えば有価証券の届け出を英語でも受け付けるくらいの融通を利かせてもいいだろう。根拠法も英米法を採用してもいいのではないか。そうすれば外国の弁護士も日本で営業できる。さらに「東京金融国際裁判所」をつくって、裁判官や弁護士や検事の共通言語を英語にしてしまえばいい。そのくらいの改革をして環境を変えていかないと、東京は世界の金融市場からますます取り残されてしまうだろう。

リテールの現場でも運用力で評価できる顧客を増やす

 私は金融庁の森信親長官がフィデューシャリー・デューティーの理念を掲げる前から、運用会社は常にベストを尽くさなければならないと言ってきた。しかし現実として行われているのは「ミニマムスタンダードの保証」だ。法的にやってはならないことはやらない、やるべきことは一応やっているというレベルにとどまっている。

 リテールの現場では、顧客に対して明らかに不適切な投資信託を勧める事例があまりにも多い。例えば、75歳の高齢者にトルコリラ建てのハイリスクな投信を平気で売ってしまう。確かに金融商品取引法に違反している事実はない。日本の銀行や証券会社はコンプライアンスが徹底されているから、家族の同意書など必要な書類の漏れはまず発生しない。でも合法であれば何をしてもいいのか。私には目先の売り上げのために、結論ありきで必要な手続きを形式的に踏むだけで、顧客の利益を全く考えていないように見える。

 資産運用業界は、運用力を高めるための努力をどれだけやってきたのか。資産運用は預金と違い、いいものと悪いものの差がはっきり表れるサービスだ。業界が努力を怠ってきたから、顧客である投資家も運用会社の違いを見分けられない。資産運用は文化だ。ワインやウイスキーと同じように、それぞれの味がある。金融機関も、運用会社がつくる投資信託を「おいしい」と言っていただける、味覚の分かる顧客を増やす努力をしなければいけない。

 資産運用の能力で運用会社が選ばれるよう、業界全体が変わらなければ、日本の資産運用の未来は暗い。コーポレートガバナンス・コードの改訂をきっかけに運用会社の意識が変わり、自らの運用力を高める方向に変革が起きれば、社会全体が良い方向に変わっていくのではないか。

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