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企業年金の利益相反管理の徹底を

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HCアセットマネジメント 森本紀行氏インタビュー〈前編〉

「パフォーマンスで選ばれる運用業界」へ
企業年金の利益相反管理の徹底を

2018年07月06日

機関投資家を対象に資産運用サービスを展開するHCアセットマネジメントの代表取締役社長の森本紀行氏は、日頃から資産運用業界のあり方についてさまざまな提言を行っている。年金運用におけるフィデューシャリー・デューティーを切り口に、今の資産運用業界が抱える問題とその解決策について見解を語った。(取材日:2018年6月4日)


HCアセットマネジメント
代表取締役社長
森本 紀行

自社と親密な金融機関の系列運用会社を優先する日本企業

 2018年3月に、コーポレートガバナンス・コードの改訂案が出された(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の提言)。この改訂案では、第2章の「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」に、企業年金に関する記述を加えている(下の囲み)。企業年金の運用におけるフィデューシャリー・デューティーの明確化は、私も以前から金融庁に働きかけてきたが、それがようやく実現に向けて動き出した。

 この内容で7月1日に改訂コードが発効されれば、おそらく年金基金を持つ上場企業はすべて採択することになるだろう。問題はその実効性だ。金融商品取引法で「善良な管理者の注意義務」が定義されているが、実効性は乏しく、この点は以前から法律上の問題意識としてあった。

 米国では1974年にエリサ法が制定され、企業年金に対してフィデューシャリー・デューティー、つまり年金運用にベストを尽くさなければならないという義務が課せされた。日本では上場企業の年金基金が、メインバンクと同じ系列の資産運用会社で大部分の資金を運用することが普通に起きているが、エリサ法のもとでは間違いなく利益相反が問われ、法律違反が疑われる。日本の法制度とは何が違うのか。

 日本の確定給付企業年金法では、実際に年金基金が損害を被ったかどうかが問題となる。年金に対して意図的に損害を与えれば忠実義務違反に問われるが、現実としてそのような状況はまず考えられない。例えばA信託銀行とB信託銀行を比較して、A信託銀行のほうが常に運用成績が悪い、あるいは同等のサービスなのに常に手数料が高いといった事実があり、それでもA信託銀行を選ぶのなら、意図的に存在を与えたとみなされて忠実義務違反に問われうる。実際は運用会社間にそこまで明確な差異はなく、年金に対して損害を与えたことの証明はほぼ不可能だ。

 違法性を問われないのなら、企業年金はどうしても自社と親密な金融機関の系列運用会社を優先しがちになる。パフォーマンスを重視せず、会社同士のしがらみだけで運用会社を選んでも忠実義務違反に問われないから、運用会社にとってはベストを尽くす動機が生まれず、運用の中身も各社横並びの傾向になりやすい。

■コーポレートガバナンス・コード改訂案(第2章の基本原則の追加事項)

【原則2-6 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】

 上場会社は、企業年金の積立運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである

利益相反に厳しくベストな運用を求める米国

 米国ではどうか。真っ先に次のような推定が働くだろう。X社はA銀行の顧客であり、融資のシェアはA銀行が圧倒的に大きい。A信託銀行はA銀行と同一グループに属しており、A信託銀行からも融資を受けている。さらにA銀行とA信託銀行はX社の大株主でもあり、株式を5%ずつ保有している。そういう状況で、X社が企業年金の運用先としてあえてA信託銀行を選ぶ。これは利益相反になるのではないか。

 X社が法律に違反していないと主張するには、利益相反の事実がないことを証明しなければならない。例えば、A信託銀行が他社より明らかに運用成績が良いとか、運用手数料が圧倒的に安いとか、そうした具体的な事実を示す必要がある。証明するのはきわめて難しい。

 だから、米国ではそのようなリスクを冒す経営者はいない。もし利益相反を疑われるような年金運用を行って、労働組合から訴訟を起こされたら、経営者はエリサ法に違反したとして100%負けるだろう。

 米国では、企業年金の運用において利益相反が許されないため、厳格な手続きを経て運用会社を厳選し、成績が悪い運用会社は切り捨てる。そういう公平な競争があるから運用業界が成り立っている。

大株主の地位を濫用して子会社が年金運用を行う事例も

 金融庁の森信親長官は、法律の強制によって改善を促すことはできればやりたくないと言っている。警察に捕まるから仕方なく改革する、捕まらなければいいというのはおかしいのではないか。私もその通りだと思う。これまではハードロー(法的拘束力がある規範)でやってきたが、ほとんど改善が進まなかったので、これからはソフトロー(法的拘束力のない規範)で改革を進めようという考えのもとでつくられたのがコーポレートガバナンス・コードだ。

 コードに追加される原則には2つの項目がある。前段は「適切な経営資源の配置」で、後段が「利益相反管理の徹底」だ。前段では企業年金を担当する人材として、資産運用について熟知し、運用会社と対話できる専門家を充てることと、人事面での取り組みに関する状況の開示を求めている。

 後段の利益相反管理の徹底は、具体的に何をすればいいのか。利益相反が疑われるような運用会社の選び方をやめることだ。

 本来であれば、経営資源の管理のなかに利益相反管理が含まれてしかるべきだ。人事だけでなく、運用会社の状況もすべて開示するのが理想だが、現状では抵抗が大きいと思われる。

 一部の運用会社では、親会社の大株主としての地位を濫用して、企業年金の運用を引き受けさせている例が見受けられる。なかには運用会社単独で営業に来ることはなく、親会社の担当者が必ず同行するような運用会社もあると聞いている。ある大企業では、歴代の財務部長が特定の金融機関の出身で、その金融機関が企業年金を牛耳っているそうだ。米国でこのようなことが起きたら、即座に摘発されるだろう。

実効性のあるコードの確立で年金運用の「創業元年」に

 年金は従業員の独立した権利であって、企業の資産ではない。それを企業の都合で勝手に扱うことは許されない。企業による年金基金の私物化がまかり通る現状で運用会社の開示を求めたら、おそらく大変なことになるだろう。

 それでも、コードに企業年金の利益相反管理について明記されることは大きな意義がある。改訂されたコードを企業が採択すれば、株主総会などで説明を求められたときに答える義務が生じる。株主に問い詰められるのは嫌だからと、年金運用には親会社と取引がない運用会社を選ぼうという機運が高まれば、米国のエリサ法と同じ状況となり、企業は資産運用の能力で運用会社を選ぶようになるはずだ。

 取引金融機関や株主のしがらみで運用会社を選ぶ慣行がなくなれば、一部の運用会社は運用残高を大きく減らしてしまうことになるため、コードの改訂を快く思わない人もいるだろう。でもそれは今までの状況が異常なのであって、今後は企業から選んでもらえるように運用力を高めればいい。それが資産運用のあるべき姿だ。

 資産運用業界も徐々に変わってきている。例えば野村ホールディングスではフィデューシャリー・デューティー宣言を行い、野村證券と野村アセットマネジメント、野村ホールディングスの3社間の人事交流をなくした。他社でもこうした動きが広まれば、年金運用の悪しき慣行は崩壊に向かい、急速に変革が進んでいくのではないか。

 コーポレートガバナンス・コードが改訂され、実効性を伴う制度が確立する2018年が、本当の年金運用が始まる「創業元年」になることを期待している。

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