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特別対談

地域創生を推進する金融の役割

2018年06月01日

日本経済にとって地域創生は重要なテーマの1つである。地域経済が抱える課題や金融の役割について、金融庁の石田晋也氏と、日本政策投資銀行(DBJ)の地下誠二氏に、地域共創ネットワークの坂本忠弘氏が話を聞いた。

金融庁 総務企画局 総務課長 石田 晋也氏
金融庁
総務企画局 総務課長
石田 晋也
日本政策投資銀行 常務執行役員 地下 誠二氏
日本政策投資銀行
常務執行役員
地下 誠二
地域共創ネットワーク 代表取締役 坂本 忠弘氏
地域共創ネットワーク
代表取締役
坂本 忠弘

1地域経済の課題と金融機関の対応

外部からの誘致に頼らず地域の企業による産業振興を

坂本 地域創生を進めるうえで大きなカギになるのは、それぞれの地域性やプレイヤーの個性をどう生かしていくかだと考えている。DBJのレポートでは、地域経済の振興策として外部からの企業誘致や公共投資に頼るのが限界を迎えていることを指摘しており、地域が持つさまざまな資源を用いて地域経済の活性化を目指す、内なる産業振興が重要だと述べている。そのためには金融機関の役割も重要で、地域での事業の連関や集積を考えたアプローチが求められるほか、資金の出し方についても従来のシニアローンだけでなく、メザニンローンやエクイティを含めた多様な手法を使えるのが望ましい。DBJでは具体的にどんな取り組みを行っているのか。

地下 企業を誘致することは地域経済にとって確かに良い効果を生むが、いまだに多くの人が想定しているのが、大きな工場をつくればまとまった雇用が生まれ、新しいバリューチェーンが生まれるということだ。最近は工場も合理化が進んでいるため、かつてほど大きな雇用は生まれにくくなっている。大企業を1社呼ぶために補助金を付けることは、地域経済にとって必ずしも実効的とはいえないのが現実だ。一方で、地域に根付いている企業はあまり重視されない傾向がある。地域創生を考える際には、地域の企業をもっと大切にすべきではないかという問題意識を持っている。例えば福井県の繊維産業や富山県の製薬のように、地域にすでにある産業を生かし、発展させることが重要なのではないか。

 金融に関しては、地域の中核企業は借金が比較的少なく、借り入れに困っていない場合が多いため、DBJでは手元の余剰な資本をうまく使おうという提案をしている。具体的にはM&Aサービスの提案や、議決権がない種類株を通じた共同出資などを行っている。種類株を発行すれば自己資本が充実するため、地元のメインバンクにとってはM&Aなどに向けた融資を行いやすくなる。このように地域金融機関と、エクイティを提供できるDBJの特質をうまく組み合わせた金融サービスを提供する事例が増えている。

金融検査マニュアルを廃止
金融機関の主体性を促す

坂本 金融庁の森信親長官はDBJ主催の産業金融フォーラムで、地域金融機関は融資だけではなく、企業の経営や事業の支援に従来の金融の枠を超えた役割を果たすべきではないかという問題提起をされていた。今後、金融機関が新たなサービスを展開していくにあたって、金融庁はどのような行政を進めていこうと考えているのか。

石田 かつての金融庁は、バブル崩壊後の不良債権問題に対応するために、金融機関に対して金融検査マニュアルのチェックリストに従って、一律的に検査で確認するという時期があった。ところが、かつての課題が収束し、状況が変化しても継続的に同じような検査・監督をやってきた結果、さまざまな副作用が生じてきた。例えば、金融機関が顧客ではなく検査マニュアルのチェックリストに形式的に合っているかということにばかり重きを置くようになり、「検査でいろいろ指摘されないようにするにはよけいなことをしない方がいい」という意識が強くなってしまったのではないかという反省がある。他にもさまざまな弊害が出てきたなかで、このような問題意識もあって、金融庁は金融検査マニュアルを廃止しようということでパブコメをかけた。

 金融機関である以上、健全性を確保することは当然だが、そのためにも、金融機関にはもっと主体的に創意工夫を発揮していってほしい。金融機関に提供を期待されているサービスは決して一律ではないと思う。地域や産業によって事情は異なるし、もちろん金融機関自身の得意や不得意もあるだろう。

 もう多くの人が分かっていることだが、地域経済は、かつてのようにただ銀行が融資するだけで産業が伸びていくという環境ではなくなっている。企業の悩みはもっと複雑で、例えば、後継者問題や労働力不足といった課題を解決するために、金融機関ができることはもっとあるはずだ。お客さんが何を求めているのか、それに真剣に応えるために、主体的に考え行動することが今まで以上に重要となる。

 誤解してほしくないのは、すべての金融機関が金太郎飴のように同じようになるとか、全てが平均点を取ってほしいということではない。各金融機関がそれぞれの強みを追求して、顧客が金融機関を比較検討し、結果として、顧客の役に立つ方向で競争が促され、業界全体が成長していってほしい。

 かつて強い規制の中で行動することが求められていたせいか、銀行は「人と違う」ことを売りにする習慣があまりなかったのかもしれない。金融検査マニュアルの廃止は、経営者の意識を変革する契機にもなるのではないか。

特別対談1

2地域内の連携を促すプラットフォーム機能

「正常先を伸ばす」という発想
長期的視野でのサポートを

坂本 地域企業の多くは、大企業と比較すると経営資源に限りがある。そのような状況で地域創生を実現するためには、互いの足りないところを補い合うために連携できる場として、地域プラットフォームのようなものが必要ではないかと考えている。

地下 これまでの傾向として、成績の悪い企業に対する銀行のサポートは手厚かったが、これから重要になるのは、いわゆる正常先の企業をさらに成長させるための政策だ。要注意先企業を正常化させることは個々の企業ごとに対応できるが、正常先の企業価値を伸ばすためには、プラットフォームを通じた企業間の連携が必要となるだろう。

 具体的な取り組みの事例に、瀬戸内地域の観光業を対象とする「せとうちDMO」がある。従来のように各県、各温泉で観光客を集めるより、地域ぐるみでインバウンドを促した方が良いということで、DBJと地銀が共同でファンドをつくって投資を行っている。

 最近は地銀のなかでも徐々に、こうした広域的な取り組みへの意識が広まっている。我々としても地銀の問題意識とうまく連携して、地域の企業を伸ばし、地域経済を活性化させるためのプラットフォームをつくっていきたい。

 金融当局には長い目で見てほしいと考えている。新たな産業を立ち上げるには時間がかかる。地域創生にはPFI( Private Finance Initiative )やPPP(Public Private Partnership)といった官民連携手法も重要となるが、近年ではPFI・PPPが単なる財政圧縮の手段ではなく、地域経済の継続的な成長に資する長期的なプランを実現するためのツールであるという問題意識が広まっている。そうした案件を支える金融機関に対しても、短期で成果を出すことを求めず、長期的に取り組めるような環境をつくってほしい。

■瀬戸内ブランド推進体制図
瀬戸内ブランド推進体制図

地域創生事業は継続性が重要
行政は「下から支える」立場で

坂本 石田さんは自治体へ出向した経験があり、地域創生における産官金の連携にもかかわってきたが、連携の在り方についてどう考えているか。

石田 地域における産官金、あるいは産官学金の連携はたいへん重要で、うまくいっている取り組みも多いと思うが、行政が気を付けないといけないのが、補助金の消化事業のようになってしまわないようにすることだ。官だけでリードしようとするとうまくいかない傾向があるように思う。むしろ、本当は民間が中核になり、官は下から支えるくらいが良いと思う。いずれにしても、大切なことは産官学金で一体何を目指すのか、そのためにそれぞれが何をする必要があるのか徹底して議論して進めていくことではないか。

坂本 新しい事業を興すときに、DBJにはエクイティを提供できる機能があるが、銀行はそれが難しいという現状がある。DBJと地域金融機関が連携し、銀行が資本性の資金を出すことに対して、どのように考えているのか。

地下 その点においても金融検査マニュアルがなくなったことは大きい。例えば種類株のような資本性資金について、マニュアル上どこに位置付ければ良いか判断するのは難しかったが、マニュアルが無効になったことで、今の銀行の枠組みのなかで資本性資金を出しやすくなった。

 地域金融機関ではこれまで、金融検査マニュアルの影響もあり、業務範囲に関してある意味で自己規制をしているところがあった。石田さんが言う、金融機関が主体的に動くというのは、地域金融機関で働く人たちが規制や前例を外れて、新しいことに挑戦することだと考えている。

3企業と行政、地域金融機関の連携

業種の垣根を超えた対話から
金融機関の創意工夫が生まれる

坂本 以前に福岡で財務局が主催となってDBJが協力をして、金融機関や事業者を集めてワークショップを開催したという記事を見た。地域の経済や産業のビジョンについて、組織を超えて考える場をつくるのはとても良いことだと感じた。

地下 福岡以外にも、北陸や広島でも同様のワークショップを開催した。官と民、企業と企業が連携するという新しい思考に、地域の今後を担う人たちになじんでもらいたいという発想が根底にある。

坂本 石田さんは東日本大震災事業者再生支援機構を立ち上げ、その運営を担った経験がある。

特別対談2石田 被災地の産業は大きなダメージを受けたため、再出発するためには否応なく、地域のさまざまな人が集まって話をしなければいけなくなった。地域をどう復興するのか。どんな施設をつくるのか、あるいはつくらないのか。金融機関はどのような手伝いができるのか、できないことをどうするのか。事情も立場も違う者同士が集まるから、最初はどうしても衝突してしまう。それでも何度も議論を重ねれば、必ずしも話がまとまるわけではなくても、新しい知恵が生まれることもある。

 金融機関にとっても、創意工夫といってもなかなか自分たちだけで考えても出てこないと思う。地域のプラットフォームやワークショップを通じて外部のさまざまな立場の人とたくさん、繰り返して話をするなかで、工夫の芽が生まれるのではないか。

 坂本さんが紹介している地域創生の事例を見て感じたことはいろいろあるが、例えば私は以前に青森で農協の仕事にかかわっていたことがあり、当時は地域金融機関や他の製造業が農協と同じテーブルに着くような雰囲気はなかったが、最近は壁がずいぶん低くなってきた。地元の信組なども加わり、互いの得意分野を生かしながら食品産業の拡大を目指すような事例が出始めているのを興味深く思った。

坂本 金融機関にとって外からの目、第三者との対話が、従来の金融の枠を超えたビジネスを行ううえで重要となる。それを実現するためには、金融界も、金融庁自身も人材とその育成のあり方が問われるのではないか。

石田 金融庁としても、金融機関とより本質的に重要な議論ができるようになる必要がある。そうした議論ができる人材を育てるのはもちろん容易ではなく、時間がかかるが、多くの外部の意見を聞いたりしながら、人材育成を地道に取り組んでいきたい。

《対談所感》 地域共創ネットワーク 坂本 忠弘氏

「越境行動」で、「始動者」に

 お二人が共通して強調されていたのは、金融の多様性を生み出していくこと。地域での新たな事業創造のために、金融の境を越えて対話と行動をしていくこと。これからは金融機関が「ひと」・「もの」・「ちえ」・「わざ」などをつなぐ「場づくり」の役割を担うことも期待されます。金融機関で働く一人ひとりが、地域創生の当事者として、協働や共創に「一歩を踏み出していくこと」が問われているのを対談を通じて実感しました。