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―アジア市場の投資環境の現状―

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J‐MONEYカンファレンス

運用難時代の先を読む
―アジア市場の投資環境の現状―

2018年03月09日

日本銀行のマイナス金利政策導入により、機関投資家の運用環境は厳しさを増している。国内債券だけでは運用が立ちいかなくなり、海外のアセットに目を向ける機関投資家が増えている。なかでも著しい経済成長を続けるアジアは、検討すべき投資先といえるだろう。本誌は2017年12月4日に東京で、J-MONEYカンファレンス「運用難時代の先を読む ―アジア市場の投資環境の現状―」を開催した(主催:J-MONEY、協賛:ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ)。各スピーカーの講演の概要を紹介する。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ 代表取締役社長 髙村孝氏J‐MONEYカンファレンス
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ代表取締役社長の髙村孝氏は、開会のあいさつで、「効果的なポートフォリオを構築するには、①高パフォーマンス・低リスクを目指す②リスク・リターンの相関度が異なる③一定以上の流動性がある――各種資産を組み合わせることが重要だ。日本国債に匹敵する市場規模を持つアジア債券はその有力候補の一つといえる」と語った。

【アジア債券】アジア債券投資の魅力を探る

通貨ベースのボラティリティが低く
収益期待の分散アセットとして有効

新原謙介氏
ステート・ストリート・
グローバル・アドバイザーズ
常務取締役 チーフ・
インベストメント・オフィサー
新原 謙介氏

 投資家が債券を検討する際、多くは第一候補が円債、第二候補は為替リスクをヘッジした米国債となるだろう。だが、現状の低金利環境下では十分なリターンが期待できない。とは言え、グローバル新興国債券となると、リスク特性が当初想定の債券の域を超えてしまう。

 ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ チーフ・インベストメント・オフィサーの新原謙介氏は、「中国を含む東アジアや東南アジアの各国債券の利回りは、相対的に先進国債券を上回る水準である。アジア国債の市場規模は拡大しており、足元の発行残高は主要な世界国債インデックスの3割前後に達するほどだ。市場規模が大きいということは、多様な投資家が存在し、一定以上の流動性があることを示している」と指摘する。

 なかでも新原氏が着目するのが、先進国債券の代わりの分散投資先としてのアジア債券の有用性である。

 「日本の投資家が海外債券で運用するときのハードルの一つが為替リスクだが、2000年以降のアジア通貨は、新興国通貨はもちろん、豪ドルやユーロといった先進国通貨と比べてもボラティリティが低い。株式との相関性という観点では、アジア債券はグローバル新興国債券より低い傾向がみられる。先進国債券より高い利回りが期待できる半面、為替のボラティリティが低く、株式など他資産との相関性も低いアジア債券は、コアではなくても、資産ポートフォリオの分散アセットとして非常に意味があるといえるだろう」と強調する。

 アジア債券への具体的な投資手法として、新原氏は同社が提供する債券ETF(上場投資信託)の『ABF汎アジア債券インデックス・ファンド』(通称:PAIF)を提案する。

 PAIFは2005年に香港取引所に上場、2009年には東京証券取引所に重複上場した。中国、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの政府および投資適格の準政府機関の現地通貨建て債券で運用している。銘柄の組入比率は時価総額アプローチではなく、①各国の債券市場規模②各国のソブリン債務格付け③投資利便性指標――などの年次のスコアリングを基に、各国配分を均等に近いかたちで決定している。

 新原氏は、「2005年に1000億円程度だったPAIFの純資産総額は、2017年9月末時点では4000億円強まで拡大している。大口の投資資金も十分対応可能だ。信託報酬が0.2%と低コストのアジア債券ETF『PAIF』で、資産分散を図っていただきたい」と締めくくった。

【信用格付け】アジア地域のクレジット・トレンドは改善傾向、
一方でテイルリスクも

地政学リスクの顕在化などで
流動性が急速に反転する可能性

大洞聖子氏
S&P グローバル・
レーティング・ジャパン
執行役員
チーフアナリティカルオフィサー
マネジングディレクター
大洞 聖子氏

 グローバル経済の成長センターであるアジア太平洋地域の主なリスク要因として、S&P グローバル・レーティング・ジャパン マネジングディレクターの大洞聖子氏は、「資産価格の調整」「中国の過剰債務」「政治・貿易紛争」「急激な流動性後退」の4つを挙げる。

 「主要中央銀行の低金利政策を背景に利回り追求の動きが強まっており、資産価格の急激な調整リスクが高まっている。中国では企業セクターにおいて経済成長を上回る勢いで債務が膨張している。政治・貿易のイベントに対して市場は過剰反応しがちだ。金融緩和の時代を経て、今後は流動性が後退していくことは避けられないだろう」(大洞氏)

 S&Pは2017年9月、中国の格付けをAA-からA+に1つ下げた。これはGDP(国内総生産)に対する民間債務比率が非常に高く、将来、マーケット調整が発生すると経済や金融システムに悪影響を与えるだろうとの見通しに基づいている。「過剰債務問題に対しては、中国政府も不動産投資の借り入れ規制の厳格化や、地方の問題債務を中央政府が実体的に保証して管理するなどの対策を講じているが、今後2~3年は対GDPの債務比率は伸びていくと思われる」(大洞氏)

 中国は、経済・金融政策を中央政府がトップダウンで進める国だ。大洞氏も「例えばシャドーバンキング問題も、中央政府が民間部門のレバレッジを下げていこうといった動きを強めており、それなりの対策が取られつつあると認識している。銀行セクターが過大な損失を出さないようにコントロールしながら民間債務を少しずつ削減していくと考える」と語る。

 一方、アジア太平洋地域の足元のクレジット・トレンドは改善傾向が見られるという。大洞氏は、「格付けのアウトルックは、2017年8月の-11%(「ネガティブ」が「ポジティブ」より比率で11ポイント多い)から9月は-8%、10月は-7%となった。これは商品価格の見通しが改善したことが大きい。2017年第3四半期までのGDP成長率や輸出動向、鉱工業生産などのマクロ指標もおおむね良好で、2018年も堅調なモメンタムを維持するだろう」と分析する。

 今後の懸念要因の第一は、やはり金融緩和の反動による急激な流動性の後退だ。大洞氏は、「米国の利上げはゆっくり進む公算が高い。市場は楽観的なセンチメントに包まれているが、地政学リスクなどのテイルリスク・イベントが顕在化したとき、ポジティブな状況を支える流動性が急速に反転する可能性がある」と警鐘を鳴らす。

【マクロ経済】世界・アジア経済展望:インフレなき世界の終わり?

設備投資が伸びる2018年
恩恵を受ける新興アジア諸国に期待

鵜飼博史氏
JPモルガン証券
経済調査部長
チーフ・エコノミスト
鵜飼 博史氏

 2017年は景気とともに商品市況が徐々に回復していき、年後半には物価上昇を伴った経済成長が進んだ。そうしたなかで起きている代表的な変化として、JPモルガン証券 経済調査部長 チーフ・エコノミストの鵜飼博史氏は、「企業収益の伸びと企業センチメントの改善」を挙げる。「2017年は先進国の企業で収益が改善し、投資意欲が高まっていった1年だった。2018年にかけてもその傾向は続く見通しで、先進国を中心に設備投資が伸びてくるだろう。そのため2018年は、2017年と等速の成長率を維持する年になると予想している」

 経済が堅調ななかで、物価の動向にも注目が集まる。世界的に労働生産性が循環的に上がってきているが、高齢化が進展していることもあり、鵜飼氏は、「供給サイドが引き続き弱めで推移する可能性が高く、需給ギャップはプラスとなる。そのため、2018年は先進国を中心にインフレ率が徐々に上昇すると見るのが標準的だろう」とした。

 インフレ率の下方リスクとして鵜飼氏は、物価と連動性の高い賃金に注目する。欧米を中心に、アウトソーシングやシェアリングエコノミーなどによる新しい働き方の広がりにより、労働者の賃金交渉力が低下しつつある。また、グローバル・バリュー・チェーンの拡大で企業が労働力や拠点をより安価な国へと移すようになるなど、世界的な資源の再配分も賃金上昇、ひいては物価に影響を与えかねないという。

 米国が利上げを着々と進めるなか、先進国の金融政策動向への関心も高まっている。鵜飼氏は「各国中央銀行の金融政策正常化のテンポは、世界的に弱めだったインフレ率が今後予想通り上昇していくかにかかっている。市場の慎重な見方には、将来リプライシングのリスクがある」と語る。他方で、2018年は新興アジア諸国の成長が期待できそうだ。2017年から2018年のGDP成長率の推移について、JPモルガン証券は中国が「6.8→6.5」、中国を除いた新興アジア諸国が「4.0→3.9」と予測している。

 「中国は小幅減速の見込みだが、過剰設備解消や金融規制に力を入れ始めている。今後は成長とのバランスを保てるかが課題となる。一方、ASEAN(東南アジア諸国連動)やアジアNIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)などの新興アジア諸国は先進国の設備投資の恩恵を受け、2018年もほぼ等速成長を維持すると考える」と鵜飼氏。日本は同諸国と相互補完関係にあり、アジアの生産・輸出増の恩恵も受けるほか、日本の設備投資増加の好影響がアジアにも還元する見込みだ。

【為替】アジア通貨はどのように予想すべきか?

グローバル要因に着目しつつ
4つの通貨の動向で相場を予測

高島修氏
シティグループ証券
外国為替・新興国市場本部
チーフFXストラテジスト
高島 修氏

 「新興国通貨の見通しを予想するうえで最も重要なことは、『個別国に深入りし過ぎない』ことだ」とシティグループ証券 チーフFXストラテジストの高島修氏は語る。投資対象国の分析を入念にし過ぎると、その国に対する思い入れが強くなってしまい中立的な見方で相場予測が行えなくなるからだ。

 「ファンダメンタルズも政策動向も異なる新興国通貨が、個別要因に関係なく上がるときは上がり、下がる時は下がる。そうした動きが起こるということは、新興国通貨の最大のムーバーがグローバル要因だということを物語っている。個人的には、通貨変動の影響度合いはグローバル要因が7~8割、個別要因は2~3割と考えており、ドル円も含めたグローバルな金融環境の中で投資対象通貨の動きを理解することが相場予測の勘所となる」(高島氏)

 予測においては、グローバル要因と個別要因の中間に位置するコモディティ相場の動向も無視できない。コモディティの輸出国か輸入国か、輸出産品は何か、それぞれのファクターが他の先進国や新興国からどのような影響を受けるかなども、投資先の通貨の動向を測るうえで重要となる。

 そのうえで、高島氏はアジア通貨を予想する際に見るべき4つの新興国通貨として、①投資するなどポジションが発生している通貨②メキシコペソ③ブラジルレアル④その時々で最も売られている通貨――を挙げる。メキシコペソはFRB(米連邦準備理事会)の金融政策などグローバルに変化を引き起こす要因を敏感に織り込み、ブラジルレアルは良くも悪くも新興国通貨の「王様」として、他の新興国市場全体のトレンドをけん引する点が特徴だ。

 その時々で最も売られている通貨について高島氏は、「そうした通貨の底入れは他の新興国通貨の底入れにつながることが多いので注目すべきだ。例えば、2013年のバーナンキ・ショックが起きたとき、最も売られたインドルピーが反発し始めると、その後その他の通貨も底入れしだした」と振り返る。

 市場動向を大局的に見るうえでは米ドル、ユーロ、人民元の動きも見逃せない。高島氏は、長期ドル高局面が終焉したと前置きしつつ、「今後はドル下落局面に入り、投資家のリスク先行を強める方向に寄与するだろう。ユーロ圏の経常黒字拡大に伴ってユーロも底堅く推移し、外貨準備流出に肝を冷やした中国が通貨防衛の軸足を金融引き締めにシフトするなどの変化が、マクロで見てどういった変化を誘発するかを考えることが基本となる」と強調する。