Home » 保護主義反対の 旗手になる中国

保護主義反対の 旗手になる中国

クリス・ライト(Chris Wright)
シンガポールを拠点に活動するフリーの金融ジャーナリスト。ユーロマネーやインスティテューショナル・インベスター、フィナンシャル・タイムズ、オーストラリアン・フィナンシャル・レビューなどで執筆。アジアマネーやオーストラリアン・フィナンシャル・レビューでは投資コーナー編集長を務めた。

景気テコ入れ政策の多さが中国の強み

 2017年が中国にとって重要な年になることは間違いない。中国の動向が日本に大きな影響を与えることも言うまでもない。
 資本流出と人民元安という不慣れな問題を抱える中国は、2017年秋に中国共産党第19回全国代表大会(党大会)を開催する。JPモルガンで中国担当チーフエコノミストを務める朱海濱(Haibin Zhu)氏は、「中国にとって2017年は政治の移行期である。そのなかで最大の出来事は5年に一度の党大会だ」と指摘する。

 党大会では、共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会(68歳定年)をはじめとする主要委員会のメンバーの交代があり、後任をめぐって水面下で激しい駆け引きが続いている。朱氏は、党大会で「習近平総書記(国家主席)が権力基盤を強化し、様々な分野における改革を推し進めていくことになる」と予測する。

 中国の今後にとって政治、経済の両面で重要な党大会を前に、ほとんどのチャイナウォッチャーは、中国指導部が、経済の劇的な変化ではなく、安定成長を優先することで合意するという見方で一致している。

 シティの中国担当チーフエコノミストである劉利剛(Li-Gang Liu)は、「(党大会で)安定成長の維持、金融規制の強化、リスクの抑制を重要な政策課題と位置づけると確信している。そのため、中国指導部は積極財政を続ける一方、金融政策はこれまでの倍は慎重なものになるだろう」と語る。

 中国政府は2017年のGDP(国内総生産)成長率の目標を6.5%に設定している。それを達成するうえで大きな問題は考えられないというのがエコノミストの一致した見方だ。IHSグローバル・インサイトの中国担当エコノミストであるブライン・ジャクソン氏は、「中国政府が景気テコ入れのために自由に使える政策手段の多さを考慮すれば、最終的に6.5%という中央値(目標)からいずれの方向でも0.1ポイントのズレが生じることは考えにくい」と述べる。

 さらに、成長を支える国内経済の裾野が拡大してきているのも今の中国の特徴だ。かつては国際商品価格の動向に景気が大きく左右されたが、今日では医療、教育、情報技術などの国内セクターが順調に伸び続けている。

 もちろん、中国が問題に直面していることは明らかだ。なかでも、対米貿易、元の為替相場、不良債権の問題は中国経済の安定成長に暗雲をもたらしかねない。

 

大規模な構造改革、不良債権、金融リスク

 中国政府は長年、経済の構造改革に取り組んできたが、一部のセクターでは過剰生産の問題が解消していない。中国は「過剰供給対策として、鉄鋼業界で5000万トンの粗鋼生産能力、石炭産業で1億5000万トンの設備能力の削減を計画している」(ジャクソン氏)が、それに沿って構造改革が進められることが予想される。

 しかし、大量の失業者の発生は避けられず、他産業で働くための職業訓練を含めた救済策が政府に求められるのは必至だ。これは財政赤字の増加要因になるといえるだろう。シティは、中央政府の2017年度財政赤字が3.5%増になると試算している。

 中国は不良債権問題も解決しなければならない。国有企業と銀行が抱える債務はあまりにも巨額なため、中国経済への影響の拡大が懸念される。

 「不良債権削減は中国にとって引き続き優先課題だ。しかし不良債権の詳細は開示されていない。世界金融危機後に中国政府は大規模な景気刺激策を打ち出した。その効果がはっきり見え始めたのは2010年だったが、一方で中国当局にとってはそのとき以来、不良債権と金融リスクが最大の懸念となり今日に至っている。2017年の最優先課題は企業の不良債権を減らすことだ」(ジャクソン氏)

 中国政府は手をこまねいているわけではなく、金融機関を通したデットエクイティスワップ(債務の株式化)など様々な対策を講じてきた。それにもかかわらず、不良債権処理は長い年月を要すると言われている。悪いことに、不良債権問題は、中国にはコントロールできない要因の影響にもさらされる。シティの劉氏はこう語る

 「中国経済への海外からの逆風は止んでいない。米国の新政権が打ち出そうとしている中国に対する貿易・経済政策がどのようなものになるのか、FRB(米国連邦準備理事会)の利上げによる米ドル高・元安の圧力がいつまで続くのかは、依然として不透明だ。欧州主要国の選挙も結果次第では、(中国経済にとって重要な)世界の景気成長や金融市場に影響することが懸念される」

 国内にも大きな問題がある。

 「中国では、規制リスクが高まりつつある。元安にともなう資本流出、債券のデレバレッジ、それに恐らく起きつつある債券市場バブルは、オンショア(国内)金融市場を不安定にする可能性がある」(劉氏)

 こうした内外の諸問題に対して、中国政府は規制強化で応じる姿勢を見せている。中国には中国証券監督管理委員会(CSRC)と中国銀行業監督管理委員会(CBRC)という2つの主要な金融サービス規制機関が存在する。最近、それぞれのトップの交代が発表されたが、証券界および金融界への規制を強める狙いがあるのは明らかだ。

 海外への資本流失の勢いをそぐとともに、人民元を下支えするための規制強化にも踏み出した。中国企業はここ数年、海外で大型M&A投資を繰り返してきたが、近い将来、そうした流れも一部で止まる可能性がある。

「一帯一路」構想は開放経済のシンボルに

 一方、中国の経済勢力圏拡大を目指して習主席が2014年11月に提唱した「一帯一路」構想がその重要性を増してきて、「2017年における中国の対外経済政策の目玉」(劉氏)になることが予想される。しかも、その可能性は、トランプ米大統領が就任初日に米国のTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を決定したことで、なおさら高まっている。

 実際、中国は「一帯一路」に関する初の世界首脳会議を5月14~ 15日に北京で開催することをトランプ政権発足から2週間後に発表した。JPモルガンの朱氏が指摘するように、「2017年に中国が主催する国際会議で最重要」なものになることは間違いなさそうだ。「一帯一路」サミットの意義について、朱氏は次のように見る。

 「『一帯一路』構想は、提唱以来ずっと中国自身の経済開発を加速させるための国家戦略と位置づけられてきた。最近それに、中国経済の開放度の高さのシンボルとして、同時に保護貿易主義の流れと不透明な米国の貿易政策に対する戦略的な対抗手段としての重要性も加味された」

 中国に関して総じて言えば、問題を抱えつつも、2017年の6.5%の成長目標は達成するものと見られている。そうした中国の情勢は日本にとって何を意味するのだろうか。

習支配強化による安定は日本経済にもプラス

 日本にとって中国は主要な貿易相手国である。日本の財務省貿易統計速報によると、2016年の対中貿易では、輸出額は12兆3622億円で前年比6.5%減、輸入額は17兆153億円で12.4%減だった。日本の貿易赤字は4兆6531億円で6年ぶりの減少となった。ちなみに、対米貿易は、輸出額が14兆1431億円で7.1%減、輸入が7兆3084億円で9.3%減。貿易黒字は2年ぶりに減少して6兆8347億円だった。

 問題は、元安のために中国では日本を含む海外からの輸入コストが上昇していることだ。しかも、対ドル下落率は人民元のほうが日本円よりずっと大きい。元は対円で、2015年の1元=20円から現在は16円まで下落している。

 円高は日本の自動車や電子部品の対中輸出にとって理論的にはマイナス効果をもたらす可能性があるが、2016年の実績を見ると、いずれの輸出も前年比で順調に増加している。12月の対中輸出は、自動車と電子部品の輸出が前年比で2桁も伸びたことから、輸出総額は12.5%増の1兆3013億円と過去最高を記録した。

 中国に輸出される日本の電子部品は中国で製品に組み立てられて海外に輸出される。中国が元安で上昇した輸入コストを輸出によって取り戻すには、日本からの部品輸入を増やす必要がある。この傾向は今後も続くものと見られる。

 日本の中国からの輸入では機械、輸送機器、鉱物性燃料(潤滑油等)などの比率が高い。これらの輸入コストは元安によって下がっている。国際商品価格の低下も日本の輸入にはプラスだ( この効果は日本以外の国にもあてはまる)。

 秋の党大会で中国国内に何らかの政治的な不安定要因がもたらされることがあれば、日本にも当然、影響が及ぶことになる。しかし、そのリスクはほとんど考えられない。チャイナウォッチャーたちは、習主席が党大会で権力をさらに掌握すると予想している。その結果、習主席には自分が望むペースで経済の安定成長を維持することが可能になる。それは日本にとっても好ましい状況である。

 中国が、輸出主導から内需主導の成長モデルへの転換を目指した広範な構造改革に踏み切って数年が経った。構造改革は、日本より、石油や天然ガスなどの炭化水素資源の輸出国(たとえばインドネシア)に大きな打撃を与えている。日中貿易は減少に転じているものの、日本、中国のいずれにとっても状況は憂慮すべきほど深刻ではない。

 トランプ政権による米国のTPP離脱を受けて、アジア太平洋やアジア域内の地域貿易協定構想にとって日中関係が重要度を増すことがありうる。その場合、日本と中国の関係が他の関係国に押される格好で深まることもないとは言えない。