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2017年の主役は アクティブ投資家?

クリス・ライト(Chris Wright)
シンガポールを拠点に活動するフリーの金融ジャーナリスト。ユーロマネーやインスティテューショナル・インベスター、フィナンシャル・タイムズ、オーストラリアン・フィナンシャル・レビューなどで執筆。アジアマネーやオーストラリアン・フィナンシャル・レビューでは投資コーナー編集長を務めた。

世界は異端候補当選と「トランプ相場」に驚く

 2016年11月8日の米大統領選挙の結果に、世界は2度驚いた。まず、自らを「アウトサイダー」(異端者)と呼ぶドナルド・トランプ氏が事前の予想を覆して当選したことに世界は動揺した。事実、11月9日の東京証券取引所ではトランプ氏優勢が伝わると、日経平均株価は一時1000円以上も下落し、ドル安も進んだ。ところが、11月9日未明(現地時間)のトランプ氏の勝利演説が終わると、まずドル高、その後開いたニューヨーク株式市場では米国株急伸と、手のひらを返したような「トランプ相場」が起こった。

 ハートウッド・インベストメント・マネジメントのインベストメント・ディレクター、ディビッド・アブソロン氏は、「トランプ勝利は市場にとってリスクイベントだと恐れられていたが、実際に市場が見せた反応はそれとは正反対のものだった」と語る。

 市場は新大統領に何を期待しているのだろうか。さらに、新政権の政策への期待を反映した「トランプ相場」は、世界、そして日本にとって何を意味するのだろうか。

 市場は米国の利上げ見通しを中心に動いている。ソシエテ・ジェネラルのグローバルアセットアロケーション部門責任者であるアラン・ボコブザ氏は、「FRB(米連邦準備理事会)が2017年9月までに3回の利上げを行うと予想している。一方、ECB(欧州中央銀行)については、国債買入プログラムによる大規模な量的緩和策の早期テーパリング(減少)に踏み切る可能性がある」とコメントする。それらの予想通りの展開があれば、影響は銀行以外にも及ぶ。

 まず、すでに世界的に起きている債券を売って株式への投資を増やす動きが加速する。米国の株価は大統領選挙後の1カ月としては最大の上げ幅を記録した。理由は単純だ。トランプ氏の大型減税とインフラ投資促進という選挙公約が景気浮揚につながるという思惑から、大量の資金が株式市場に流れたからだ。バークレイズのまとめによると、11月16日までの1週間に181億ドルの債券が売られ、275億ドルの資金が株式市場に流入している。

 
 債券の大量売りは世界共通の現象だが、株式への大規模な資金の流入を観察すると米国市場に大きく偏っていることがわかる(しかも、特に買われている銘柄は中小企業、金融関連株、資本財・サービス株)。米国市場が「トランプ相場」で湧く一方で、資金の流出に見舞われた新興国市場の株式はアンダーパフォーマンスを余儀なくされてしまった。「先進国の株高、ドル高」と「米国債の下落、アジア(日本を除く)の株安」が続く現象を、シンガポールの銀行最大手DBSグループは「トランプトレード」と呼ぶ。

 
 アナリストの間では、米株式市場にとって2017年が好調な1年になるという予測がほぼコンセンサスになっている。B of Aメリルリンチ・グローバルリサーチは12月7日、2017年末のS &P500種株価指数の予想水準を2300とするレポートを発表した。レポート作成時の予想の前提条件は、2017年の指数上昇率が5%、収益伸び率が9%だった。同レポートは、市場がユーフォリア(幸福感)に包まれたまま上昇相場終焉に向かえば、2700まで急伸する可能性があることも指摘している。B of Aメリルリンチ・グローバルリサーチは同時に、トランプ政権が財政による景気刺激策を打ち出せば、米国の名目成長率は3%から4%(実質成長率は2%)になる見通しも発表した。

「トランポノミクス」で不透明感が増す新興国市場

 それでは、新興国市場、特にアジア市場の先行きはどうなるのだろうか。その答えは、トランプ政権の政策が貿易にどのような影響をもたらすかによって決まる。

 安倍晋三政権はトランプ氏当選から1カ月後の12月9日にTPP(環太平洋経済連携協定)の国会承認を終えた。それより先の11月17日(現地時間)に安倍首相はニューヨークでトランプ氏と会談して、次期大統領を「信頼できる指導者」と持ち上げた。そのわずか4日後、トランプ氏は「大統領就任初日にTPPから離脱する」と発表した。これでは、TPPは「死んだも同然」だ。トランプ氏率いる米国は、代わりに二国間貿易協定交渉で日本や中国などのアジア諸国に圧力をかけるのだろうか。米中関係はすでに波乱含みの様相を呈している。シティグループは次のように解説する。

 「トランポノミクス(Trumponomics)は、新興国市場に2つの大きな不安要因をもたらす。第1は、ワシントンが打ち出す(景気浮揚のための財政政策と金融政策の)ポリシーミックスがどのようなものになるか不透明であること。第2は、モノ、ヒト、カネの自由な移動を制限しようとする政策がもたらす先行きの不透明感。現在の新興国世界には、小さいながらも相対的に開かれた経済が多く存在する。それらの諸国は、過去30年間、世界経済の一体化の高まりの恩恵を非常に受けてきた」

 一般的に、米国が景気浮揚に力を入れ、ドル高が続けば、新興国市場からの資本流出につながる。新政権誕生に伴う先行きの不透明感については、ジュリアス・ベアで新興国市場戦略リサーチ・アナリストを勤めるハインツ・ルーティマン氏も、「トランプ氏の移民政策、外交政策、貿易政策が明確になるまで、新興国市場に特化した戦略(ファンド)は動くに動けない状況が続く」と指摘する。

金下落はトランプ勝利でリスクが軽減した証拠?

 UBSウェルス・マネジメントCIO(最高投資責任者)のマーク・ハフェル氏は、トランプ大統領の誕生によって世界経済の「分極化」が加速されると警告する。米国の成長率が高くなる一方で、中国経済の減速が長引く可能性が出てくるというわけだ。一部の市場参加者と違って、ハフェル氏はアジアでは株式が債券をアウトパフォームすると信じており、中国とインドについてはオーバーウェイトを維持する方針だという。ハフェル氏の予測では、世界経済の成長率は2016年見通しの3.1%から2017年は3.5%へと改善し、ほとんどの国で株価の上昇が予想される。その予測のなかで、2017年を通して最も高いパフォーマンスが期待されているのが米国株式だ。

 実際、米国ではインダストリアル(産業)セクターとシクリカル(景気循環)セクターの銘柄の株価上昇が見られる。双方とも、トランプ政権が実際に地方のインフラ投資に踏み切れば恩恵を受けられる立場にある。HSBCのオーストラリア市場担当チーフエコノミストであるポール・ブロックスハム氏はこう述べる。

 「トランプ氏が当選したことで、世界のインフラ投資の展望にも好影響がもたらされ、原材料価格が上昇してきた。中国に限って言えば、トランプ政権の出現で世界経済が落ち込み、中国からの輸出が冷え込む場合に備えて、中国当局がインフラ投資を増やす可能性が高くなってきた」

 米大統領選後に不可解な値動きをしている資産の1つに金(ゴールド)がある。通常、経済や政治の先行きの不透明感が増し、リスクが高まるほど、価格が上昇するのが金の特性だ。しかし、金価格は選挙結果が出てから本記事の執筆時(2016年12月中旬)までの間に10%も下落している。その事実からすると、市場がトランプ氏の勝利でリスクが減ったと判断しているかのように思えてしまう。

 現在の市場で起きている現象がトランプ氏の大統領選勝利に端を発したものであることは間違いないが、すべてがそうした結果によるものではないことも認識する必要がある。たとえば、直近の原油価格の上昇は、米国の政策とは無関係で、OPEC(石油輸出国機構)加盟国と非加盟国が15年ぶりに原油の減産に合意した結果を受けたものだ。

未知の世界「トランプワールド」へようこそ

 トランプ政権誕生の日本への影響も見てみよう。トランプ氏勝利以降、円安が続いている。ソシエテ・ジェネラルは2017年末までにドル円為替相場は120円まで円安が進むと予測する。その水準の円安になれば、「日本株には明確なサポートライン」だという。

 しかし、トランプ相場にもかかわらず、日本の株価の先行きは明るくないようだ。 UBS証券ウェルス・マネジメント本部 ジャパン・エクイティ・リサーチ・ヘッドの居林通氏は、アベノミクスによる構造改革が効果をもたらしていないことから、「2017年の株式についてはアップサイドの可能性はほとんどない」と述べている。

 さらに、「トランプワールド」のお陰で活況が続く日本の銀行株についても、先行きのポジティブな見通しはすでに価格に織り込み済みだ。TPPが最終的に消滅すれば、日本経済が大きな打撃を被るのは必至だ。

 概して言えば、市場が「all bets are off(予測不能)」な状況にあることに変わりはない。市場は、英国民がEU離脱(Brexit)に投票することも、トランプ氏が下馬評を覆して米次期大統領に選ばれることも、さらにトランプ氏勝利への市場の現在のような反応も予測できなかった。ほとんどの市場参加者は、トランプ氏が勝てば政治と経済の先行きが不透明になり、市場にとって最悪のシナリオだと考えていた。つまり、市場では今、未知の世界への旅がはじまろうとしているのだ。

 そのような市場環境にあっては、選択投資が重要になってくる。B of Aメリルリンチ・グローバルリサーチの責任者であるキャンディス・ブラウニング氏はこうコメントする。

 「英国のBrexit投票と米大統領選の結果は(市場に)根本的な変化をもたらした。投資家にとっては機会の到来である。資産クラス、セクター、それに銘柄を慎重に選ぶことができる投資家は市場をアウトパフォームできるだろう。2017年はアクティブ投資家の年になる可能性がある」

投資家は、見通しを誤らないようにくれぐれも注意することが肝要だ。