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日本投資・運用フォーラム2018 講演レポート

基調セッション

2018・2019年の経済・市場展望
-ゴルディロックスの終焉?-

山川 哲史

バークレイズ証券株式会社
調査部長 チーフ・エコノミスト

最大のリスクは米中貿易戦争

山川 哲史氏

2016~17年にかけては 「世界同時的」かつ「安定的」な景気拡大が続く一方、インフレ率は低位安定、各国の中央銀行が緩和的な金融政策を維持するなかで、所謂「ゴルディロックス(適温経済・相場)」が続きました。先進国株式、新興国資産などのリスク性資産が選好(リスクオン)されたのが、この期間の市場の特徴でした。

ゴルディロックスは、世界景気が徐々に後退局面へと移行するなかで、2019年後半~2020年頃にかけて終焉を迎えると予想しています。OECD(経済協力開発機構)45カ国で成長率が逓減する国の比率が増加していること、先行指標であるISM(米製造業景況感指数)やPMI(製造業購買担当者景気指数)の示す景気拡大の勢い(モメンタム)が徐々に衰えつつあること、主要景気指標における実績値と市場予想のかい離を反映するサプライズ指数が下振れ(ネガティブ・サプライズが増加)し始めていることからも、世界景気が先行き減速局面入りする可能性は裏付けられるでしょう。

ゴルディロックスの帰趨に最も影響を与えると考えられるリスク要因は、米中間の貿易「戦争」です。貿易「戦争」が、成長率の低下とインフレ率の上昇が同時進行するスタグフレーションへと至るシナリオはテールリスクの域を出ませんが、その可能性は着実に上昇しています。

貿易戦争に伴う保護主義の蔓延は、世界の成長率を低下させるとともにその「振れ幅」を増大させ、さらには平均的なインフレ率上昇をもたらす傾向があります。報復関税がどの程度続きかつ拡散するかにもよりますが、実際には成長率が0.5%ポイント前後低下、一方でインフレ率が0.5%ポイント前後上昇する可能性が高いとみています。これをスタグフレーションとまで呼ぶかは否かはともかく、ゴルディロックスの前提となってきた、低インフレ率の下での世界同時的な景気拡大といった経済環境が揺らぐことは間違いありません。

世界経済に対するリスク要因としては、米国が景気後退に陥る可能性も挙げられるでしょう。米国の長短金利差と景気後退確率は過去の全ての局面において強い逆相関関係にありますが、長短金利差は着実に縮小傾向を辿っています。「今後FRB(米連邦準備理事会)が、四半期ごとに25ベーシスポイントの利上げをしていく」といった予想を前提とすると、政策金利は2019年末の段階で3.25~3.5%まで上昇、その時点での長期金利を3%に止まるのであれば長短金利が逆転することとなります。2019年後半には、世界経済をけん引している米国が景気後退に陥るリスクが浮上するといえるでしょう。

一方新興国経済の動向からも目が離せません。米国の利上げにより対新興国通貨でドルの上昇が続けば、新興国から先進国(米国)へと資金が流出していくと考えられるためです。しかし、ひとくちに新興国といっても米国の利上げに対する脆弱性には大きな格差があります。なかでもハンガリー、ブラジル、トルコなどは比較的大きな打撃を受けるおそれがあるでしょう。このように、各国が抱える対外不均衡の度合い等に応じ新興国内でも格差が拡がる可能性にも注意が必要です。

バークレイズ証券株式会社

日本経済は金融政策の正常化がカギ

米国の成長率は、2018年後半以降、財政拡大効果の後退と共に段階的に低下していくことが予想されます。FRBの景気拡大の持続性に対し自信を持っており、貿易「戦争」が激化した場合の景気の下振れも、十分相殺できるとの見通しを持っているのでしょう。ただし、中間選挙の結果上院と下院間で『ねじれ』状態が生じると、追加的な財政拡大も含めトランプ政権の政策実行力にも陰りが出てくるのではないでしょうか。

中国経済についても、徐々に減速しているのが現状です。景気後退の背景には、シャドーバンキングに対する急速な規制強化とインフラ関連投資の縮小があるとみられます。しかしこれも、裏を返せば、貿易「戦争」が激化する際にはこれらの規制を緩和し、再び景気を浮揚する政策余力があるいうことでしょう。

日本経済は、当面よく言えば安定、悪く言えば大きなサプライズが無い状態が続く見込みです。最大のポイントは異次元緩和がいつまで続くかですが、2018年後半から19年前半にかけ日銀が何らかのかたちで正常化へと踏み出す可能性は高いでしょう。そうなれば、日本の金融市場はまたダイナミズムを取り戻すはずです。もし正常化が進まなければ、すでに正常化に取り組み始めた米国や欧州との対比で円安が進むでしょう。

日本を含む主要国における金融政策局面の格差を勘案する限り、大幅な円高になりにくい現状ですが、今後世界経済が失速していけば、リスクオフ通貨の代表格である円は上昇することが考えられます。2019年の前半には、円相場にも転換点が訪れるのではないでしょうか。

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