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実務に長けた管理職登用が課題

J-MONEY2018年夏号 注目記事

運用業界の「女性活躍推進」

育成した人材の流出リスクを軽減
実務に長けた管理職登用が課題

2016年に女性活躍推進法が施行されて早2年。安倍晋三政権は、女性の就業促進に「労働力人口の増加」や 「優秀な人材の確保」などの意義を掲げている。他の先進国と比べて管理職などの女性比率が低いといわれる日本の運用業界において、実際にどのような取り組みが行われ、変化をもたらしているのか。

モビリティ制度などで
男性も働きやすい職場に

 厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、金融・保険業における係長相当職に占める女性の割合は全産業の平均を上回るものの、役員に占める女性の割合は極端に少ないという結果が出ている。2016年度は全産業平均が22.7%だったのに対し、金融・保険業は8.2%にとどまる(下図)。

 JPモルガン・アセット・マネジメント 金融法人営業部 エグゼクティブ ディレクター 藤村真紀子氏は、「いま国内で流通する運用商品は、ほとんどが男性によって組成されたもの。女性管理職が増加すれば、受益者である国民と同等の男女比率で商品を組成することが可能となり、より投資家ニーズに適したバランスのよいラインアップが実現するのではないか」と提言する。

 同社のグローバルでの資産運用部門を率いるCEO(最高経営責任者)はメアリー・カラハン・アードス氏という女性である。また、J.P.モルガン米国本社の経営委員会は11人中5人が女性であり、全社的に女性管理職は増えているという。有志社員による「Women on the Move」では、職場環境の向上や女性管理職層の拡大、女性社員の長期的なキャリア構築を支援するさまざまな活動を展開している。また、若手社員を対象としたメンター(相談役)制度では、性別や年齢に関わらず社員が自由に自らのメンターを指名できる。

 藤村氏は、「かつて私は仕事と育児を両立するため、ライフイベントに合わせてその都度転職せざるを得なかった」と振り返る。J.P.モルガンには、欠員募集が出た部署へ社員が異動を希望できるモビリティ制度が整い、フルタイム勤務が難しい社員は離職することなく社内の異動で勤務形態を調整することができる。「会社としても、育成した人材の流出リスクは軽減するだろう」(藤村氏)。

 同社は社員が働きやすい環境づくりやワーク・ライフ・バランスの向上を目指したサポートが充実している。妊娠・出産・育児のあんしんプログラム制度を使い、育児休暇の取得や復職時短、時差出勤など、社員は多様な働き方が選択できる。同社では多くの女性社員が子育てをしながら仕事を続けており、子どもを持つ男性社員でも配偶者の出産前後に取得できる「パタニティー休暇」や育児休暇制度を取得しているようだ。

新卒採用は男女半々に
女性ファンドマネージャーが増加傾向

 職場環境の整備は、国内運用機関も拡充を図っている。女性社員の増員・育成・定着を目指す三井住友アセットマネジメントでは、若い世代が育つことで将来的に女性比率が増加することを見込む。日本の雇用システムはいまだに新卒一括採用が主流のため、新卒採用の段階で女性の雇用に力を入れる必要がある。同社の株式運用グループ シニアファンドマネージャーの坂井早苗氏は、「当社の新卒採用の男女比率は半々程度。優秀な人材であれば、性別や国籍に関係なく採っている」と明かす。女性の管理職比率を増やすことを目指し、同社は女性向けのキャリア研修を複数設けている。

 加えて“働きやすい会社づくり” の一環として、数年前からテレワークを導入、全社員を対象に浸透に努めている。2018年度からは、育児や介護といった事情を持つ社員以外も活用対象となった。坂井氏は、「会社から貸与されたPCなどを通じて、自宅から会社のサーバーへアクセスできる。セキュリティが整った状態で業務に必要な情報とシステムが揃うので、ファンドマネージャーの業務もテレワークで対応可能な体制は整っている」と語る。

 現在、同社のファンドマネージャーの女性の割合は1割程度だが、近年は増加傾向にある。坂井氏は、「リスクの取り方に男女差はないと思う。むしろ思い切りがよい女性は多いと感じるくらいだ。さらに、自分の判断に誤りがあると気づいた場合、女性は比較的迅速に方向転換できるのではないか。一般的に、女性は男性に比べて結婚や出産、育児介護などのライフイベントが仕事に与える影響が大きく、働き方・生き方の選択肢が多岐にわたる。運用においてもそれまでのやり方に固執せず、そのときどきの状況に応じて柔軟に判断するのかもしれない」と話す。

 国内の運用業界の女性活躍推進の取り組みについて、坂井氏は、「制度面はそこまで遅れていると思わない」と述べる一方で、「実際に制度を設けて運用する企業の多くは意識改革が追いついていない」との見解を示す。「“立場が人をつくる” という言葉があるように、能力のある女性にもっと仕事を一任し、成長の機会を与えてほしい。多様性を受け入れることが企業や組織の活力につながるという考えが社会の共通認識になるといいと思う」(坂井氏)。

大きな人材プールにアクセスして
国際競争力を培う

 政府は2018年6月改定のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)で上場企業に女性取締役の起用を促した。上場企業の役員に占める女性の割合は、フランス34.4%や英国23.2%、米国17.9%などに比べ、日本は3.7%と圧倒的に少ない(日本のデータは2017年、その他は2015年)。また、女性取締役のバックグラウンドのほとんどが大学教授や弁護士などで、生え抜きの女性が役員に登用されるケースはわずかだろう。

 野村アセットマネジメント 責任投資調査部 シニアESGスペシャリストの大島みずえ氏は、「外部の有識者を招聘するだけでなく、実務に長けた女性の内部昇進者も増やしていくことが重要だ」と指摘する。同社の女性管理職登用率は、2012年度から2018年度まで平均15%で推移している。

 大島氏は、「当社の新卒採用における女性比率は2016年度から30%以上を毎年維持しており、2018年度に新卒入社した総合職女性比率は57%。性別多様性を志向・維持する企業はより大きな人材プールにアクセスできるため、有望人材の争奪にも耐えられると推測する。10年、20年先を見据え、国際競争力を培っていく」と話す。

 同社には、若手社員で構成される「女性活躍推進ワーキング」があり、社会や家庭など多様な場面で活躍する「労働力としての女性」「消費者としての女性」を、運用会社という立場からビジネスを通じて支援するという視点を軸に活動を行っている。同ワーキングでは、女性や投資未経験者といった新たな顧客層を取り込むためのマーケティングにおいて提言を行っているほか、2018年夏には、投資初心者の25歳~35歳の女性向けに投資の基礎を学んでもらうカフェイベント「朝活」の開催を企画・推進している。

 さらに同社は2018年5月、自社のETF(上場投資信託)『NEXT FUNDS MSCI 日本株女性活躍指数(セレクト)連動型上場投信』を東京証券取引所に上場した。このETFは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2017年7月にESG投資開始を公表した際に選んだ3指数のうちの1つ「MSCI日本株女性活躍指数」に、追加的な銘柄選定基準を設けた「MSCI日本株女性活躍指数(セレクト)」に連動するものだ。

 同指数では、女性活躍推進法で企業が開示を求められるデータのうち、「新規採用者」「従業員」「管理職」「取締役会」における女性比率と、「男性と女性の平均雇用年数の違い」の5項目を基に多面的に企業の性別多様性が分析される。「これらの開示は義務ではないが、同指数を普及させることによって企業に開示を促す効果が期待できる。各社の取り組みが可視化されれば、それを手本とする企業も増えるなど、日本企業全体に貢献するだろう」(大島氏)。

女性のキャリアアップには
「社内サポーター」がより重要

 役員や管理職の大半を男性が占める運用業界で女性がキャリアを築くには、やはり管理職の理解やサポートがより重要といえる。ニューヨークに本社があるアライアンス・バーンスタイン(AB)の人事部は、グローバルの全拠点を対象に女性のキャリアアップ研修を実施。都内でも開催されたこの研修では、女性がキャリアアップを目指す場合、社内にもサポーター(支援者)を得ることが重要との説明があった。

 同社の執行役員 投資顧問部長 素木亜彩氏は、「サポーターは本人に代わって社内外にその女性をアピールする役割を担うことで、キャリアアップの手助けをする」と述べる。素木氏自身も、これまで社内のシニアなメンバーのサポートを得てきたという。「サポートを得るからには、女性自身も120%の力で応えなくてはならない。それは単に男性以上に頑張る、ということではない。例えば、常に自分が提供できる独自の付加価値を模索し続けるのも一案。結果的に思考力が磨かれ、組織として新しいアイデアが出やすくなるのではないか」(素木氏)。

 同社の日本拠点の女性管理職比率は2018年時点で約25%だ。素木氏は、「運用ビジネスにおける顧客との継続的な対話による信頼関係の醸成には、きめ細かな配慮ができる女性の視点を取り入れることも有効と考える」と見解を示す。女性が活躍できる企業は、異文化などの多様性を受け入れられる素地が整っているともいえるだろう。「女性管理職は、男性も含めたキャリア志向の社員に対し、より積極的にサポーターになる傾向があると聞く。海外との協働が欠かせない運用業界において、女性管理職の増加は多様性を付加価値創出に生かす重要な要素の1つだ」(素木氏)。同社日本拠点では2018年6月から在宅勤務制度が、7月からフレックス制度がスタートし、働き方の多様化が進む。