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アウトカムタイプが今後の主役に

J-MONEY2018年春号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

進化し続ける「マルチアセット」
アウトカムタイプが今後の主役に

長引く超低金利などを背景に、複数のアセットクラスや運用戦略を組み合わせる「マルチアセット」に投資する年金基金や金融法人が増えている。投資家ニーズを踏まえて進化し続けるマルチアセットの現状や新たなトレンドなどを紹介する。(工藤晋也、佐々木恵理)

説明責任と透明性のニーズに応える
クオンツタイプが日本の主流

 複数資産間で機動的に資産配分を行うマルチアセットは現在、大きく3つのタイプに分けられる(図表)。定められたモデルやルールに従って投資判断をする「クオンツ」と、ファンドマネジャーがマクロ環境などの見通しに基づいてアロケーションを行う「ジャッジメンタル」、そしてクオンツとジャッジメンタルを融合した「ハイブリッド」だ。

 日興アセットマネジメント プロダクト・スペシャリスト部共同部長 兼 機関投資家営業戦略企画部長の田﨑敬浩氏は、「日本ではクオンツタイプが主流」と話す。とくに金融法人では説明責任や投資プロセスの透明性が強く求められるため、「ルールベースで運用するクオンツタイプはニーズに合う」(田﨑氏)からだ。

 ただし、クオンツタイプが世界的なトレンドというわけではない。シンガポールをはじめとした国々では、定性的な判断を加味したタイプが評価されるなど、地域差もある。その理由について田﨑氏は「機動的な定性判断によって運用するジャッジメンタルやハイブリッドタイプのほうが下方リスクに対する高い抑制効果が期待できるから」と指摘する。

 もう1つのトレンドは、アウトカムタイプのマルチアセットだ。「アウトカム」とは、例えば絶対収益やインカム確保など、投資家の最終目的に沿った運用成果を目指すタイプと定義づけられることが多い。アクティブ、パッシブ、オルタナティブといった運用スタイルや、ESG(環境、社会、ガバナンス)などの概念も織り交ぜながら、年金基金や金融法人のそれぞれの運用方針の実現に最大限応えることを目指す。

 野村アセットマネジメント 運用部マルチアセット&ソリューションズグループCIO(最高投資責任者)の川原淳次氏は、「欧米ではすでに広がりつつあり、日本でも今後の主役になるだろう」と見ている。

図表 マルチアセットのタイプ別の特徴

地銀の引き合いが強まる
年金基金は入れ替え段階

 当初は一部の機関投資家が投資するだけにとどまっていたが、いまでは多くの機関投資家がマルチアセットに興味を示す。「とくに金融法人の引き合いが強い。最近は地方銀行や学校法人からの問い合わせも増えている」と川原氏は話す。

 一方、金融法人や学校法人より一足先にマルチアセットの取り組みを開始した年金基金は、「これまでの運用成果を検証し、各年金基金の役割期待により合ったマルチアセットへの入れ替えを模索している段階だ。今後は、一貫した投資哲学や堅固な運用プロセスと、確かな実績を持ち合わせた本格派のマルチアセットが存在感を増すでしょう」とピクテ投信投資顧問 運用・商品本部プロダクト・スペシャリストの吉川葵氏は説明する。

 マルチアセット拡大の理由は大きく2つある。1つは機動性と分散性という魅力を持つ商品性。日本の年金基金や金融法人に迅速な意思決定は難しいことから、市場の環境変化に機動的に対応するなど、機関投資家にできないことを代替できる点が支持を集めている。もう1つの理由は市場環境だ。年金基金は債券を運用の中核にしていたが、世界的な低金利によって債券利回りが低下。少しでも高い利回りを求めて多様な資産を投資対象にするマルチアセットが注目を集めるようになった。

 金融法人にとっては、2016年に始まったマイナス金利の影響は深刻だ。日本国債への依存度が大きかったことから、利回りの急低下を受けて脱・日本国債が加速。「ヘッジ外債に続く新たな投資先としてマルチアセットに着目する金融法人が増えている」とベイビュー・アセット・マネジメントのグローバル資産運用部長の山口誠氏は語る。

 さらに「適温経済」の継続によるバリュエーション上昇も挙げられる。プルデンシャル・ファイナンシャル・グループの資産運用部門であるPGIM傘下のクオンツ運用会社QMAで、会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるアンドリュー・ダイソン氏は、「世界的な株高・債券高によってバリュエーションの上昇余地が狭まったことで、マルチアセットへの関心が高まっている」と指摘する。

 年金基金でマルチアセットに投資している比率は、2011年頃までは3割ほどだったが、「足元で5割ほどに拡大している」と川原氏は言う。対する金融法人は「7、8割はマルチアセットを検討し、5割程度が実際に投資しているという印象。地方の小さな金融機関も興味を持つようになった」と、日興アセットマネジメント 機関投資家事業本部副本部長兼 機関投資家営業第二部長の三品雅人氏は明かす。

 以降は各社のマルチアセットについて取り上げる。

3つの投資対象を組み入れて
下方リスクのさらなる低減を図る

日興アセットマネジメント 日興アセットマネジメントが提供する『ローリスク・マルチアセット戦略』は、クオンツとジャッジメンタルによる投資判断でダイナミックにアセットアロケーションを行い、ダウンサイドリスクを抑制する。さらに「割安なアセット」や「相関の低いアセット」、「ヘッジ機能となるデリバティブ」を組み入れることで下方リスクのさらなる低減を図っている。

 同戦略の目標リターンはTIBOR(東京銀行間取引金利)+2%(年率)、目標リスクは3~4%(年率)。同社は日本の主流であるクオンツタイプのマルチアセットも提供しているが、「最近のボラティリティの上昇を受けて、金融法人から『ローリスク・マルチアセット戦略』の問い合わせが増えている。金融法人のポートフォリオにおけるマルチアセットの割合が高まるなかで、タイプの異なる運用戦略を複数持つスタイル分散やマネジャー分散の重要性が改めて認識されているようだ。デリバティブや新興国のアセットをユニバースに加えることで、よりリスク・リターンの優れたマルチアセットが提供できるだろう」と田﨑氏は話す。

 同社は、クオンツタイプからジャッジメンタルタイプ、さらにデリバティブを内包したタイプやAI(人工知能)を取り入れたタイプなど、「広範な商品ラインアップを有しており、リスク管理ツールも提供している。さらに高いソリューション能力を持っているので、投資家のニーズに合わせたフレキシブルなカスタマイズも可能だ」と三品氏は語っていた。

ベータだけに投資する
ロングオンリーのシンプル戦略

野村アセットマネジメント 野村アセットマネジメントでは、機関投資家のニーズなどを踏まえて3つのマルチアセットを提案する。まずはジャッジメンタルタイプの『マルチβバランス型運用』だ。中期的な運用トレンドである「BigPicture」をベースに、短気的な市場動向を引き起こす可能性のある要素の「カタリスト」を加味してアセットアロケーションを決めていく。「ジャッジメンタルタイプなので、かなりドラスティックなアセットアロケーションを行う。現物債券やETF(上場投資信託)などが投資対象なので透明性もあり、株式や債券などのベータだけに投資するロングオンリーの運用戦略というシンプルさも好評だ」と川原氏は胸を張る。

 2つ目は、ジャッジメンタルとクオンツを複合し、ロングショートを積極的に活用したリスク・コントロール型マルチアセットの『ノムラスマートプレミアム』だ。先進国から新興国までの株式や債券、REIT(不動産投資信託)、さらにはデリバティブなど幅広い資産のリスクファクター(変動要因)に着目するファクター投資になる。長期定量戦略と短期定性戦略を組み合わせることで、広範な資産の投資比率をダイナミックに変動させる。

 リスクの高さに応じて「高リスク型」「中リスク型」「低リスク型」のタイプがあるため、投資家の運用目標などに応じたさまざまな使い道が考えられる。

 最後がマクロリスクファクターを用いた『オールウェザー・ファクターアロケーション戦略』。経済ファンダメンタルズによって「実質金利」「景気」「インフレ」の3つのマクロリスクファクターを最適なアロケーションにしていく仕組みだ。川原氏は「株式や債券だけでなく、スマートベータやETF、アクティブファンドなど、投資対象が非常に幅広く、カスタマイズがしやすいのが大きな特徴」と解説する。同社のアウトカム・ソリューションのベースになっている戦略でもある。

定量と定性を合わせた運用と
強固な執行能力体制

QMA QMAは、1975年の創立から40年以上にわたってマルチアセットの運用に携わる。同社の競争優位性についてダイソン氏は、「クオメンタル」と称する伝統的なジャッジメンタルのファンダメンタルズ分析と定量的でシステマチックな分析によって、投資対象のエクスポージャーを取り、投資成果に結実させる強固な執行能力体制を挙げる。上昇相場が長らく継続し、株式市場や債券市場ともにバリュエーションの上昇余地が縮小している現状では、「トータルリターンや絶対収益タイプのマルチアセットが望ましい選択肢になるだろう」とダイソン氏は考える。

 QMAのトータルリターンタイプのマルチアセットは、株式より低リスクで魅力的なリターンを追求するため、株式や債券以外にもリターンの源泉を分散。各アセットクラスおよび地域にまたがる数多くの投資機会に対して、バリュエーションやセンチメントなどの各種指標をもとに魅力的な投資対象を発掘している。

 一方の絶対収益タイプのマルチアセットは、トータルリターンタイプのマルチアセットより、下落局面における資産保全に期待できる戦略だ。株式や債券と低相関の投資対象に分散投資することで、ダウンサイドリスクを抑制する。各アセットクラスの収益源泉に対するファンダメンタルズ分析を踏まえ、キャリーやバリュー、センチメントなどのファクターを活用して投資対象を選別する。「レバレッジを利用するリスク管理は、アクティブ・リスクの高い絶対収益タイプのマルチアセットには不可欠の要素といえるだろう」(ダイソン氏)。

市場の下落局面では下値を抑えつつ
中長期で株式並みのリターンを追求する

ピクテ投信投資顧問 ピクテでは、「マクロ」「流動性」「バリュエーション」「センチメント」という4つの指標が、グローバルな資産価格の方向性を占ううえで重要な決定要因になると考えており、各指標に特化した調査グループを組織することにより、全社的なマクロ見通しの形成と資産別魅力度の策定に生かしている。

 同社の運用戦略の1つである『ダイナミック・アロケーション戦略』は、リスクを低位に抑えながらも中長期で株式並みのリターンを追求する、成長志向のマルチアセットだ。同戦略は10年を超える運用期間に渡り、相場上昇局面を適切に捉えてきた。一方で、市場急落局面においては株式の数分の一程度に損失幅を抑えることで、株式市場の半分以下のリスクで株式市場を上回る収益率を達成してきた実績を持つ。

 12~18カ月スパンの見通しに基づく、ファンダメンタルズ重視の中期ポートフォリオ構築を基本とするが、投資判断の前提に変化の兆しが見られた場合には、躊躇なくリスク水準を変更する。

 2018年2月の株式市場急落前夜には、一時66%あった株式比率を20%台まで削減することに成功しているが、吉川氏は、「2017年11月以降、上下両睨みの困難な見通しを効果的に表現するべく、オプションを活用した運用に切り替えたことが、ボラティリティ上昇時の大胆かつ機動的な株式比率削減に貢献した。確かなマクロ見通しに加え、局面に応じた執行手法の多様性がリターンの安定性に寄与している」と話す。このように同戦略は、成長機会を捉えながらも下値は抑制するという、動的アロケーション戦略の理想像の体現を図っている。

 同社では、別のマネージャーが運用するより安定志向のマルチアセットも提供しており、カスタマイズ型ソリューション提案も行なっている。「グローバルでは、個別ガイドラインに基づく一任運用も数多く受託しており、制約条件の多い投資家も手がけやすいのではないか」(吉川氏)。

信用リスクや流動性リスクを排除し
収益を積み上げるクオンツモデル

ベイビュー・アセット・マネジメント ベイビュー・アセット・マネジメントが手掛けるマルチアセット型のファンドの投資対象は、債券先物や株価指数先物、通貨先物などの流動性の高い先物に集中している。独自のクオンツモデルを策定し、「トレンド・フォロー」で市場に追随するだけでなく、「季節性サイクルトレード」や「ポジション調整」といった要素も組み合わせ、さまざまなマーケットに対応できるモデルを構成している。

 同社は主に2つのマルチアセットを提供している。1つは、信用リスクや流動性リスクが極めて限定的な国内・米国・欧州の3地域の先物を中心に分散投資を行い、中・長期的に安定的なリターンの確保を追求する『アクティブ・アセット・アロケーション(AAA)』。もう1つは、日銀当座預金などの代替運用を目的として、低リスクかつ安定的なリターンを目指す『キャッシュ・マネジメント』だ。

 両者とも絶対収益型ファンドだが、前者は年率4~5%程度のリターンを追求するファンドであるのに対し、後者は株価指数先物のウェイトを0~10%程度に留め、債券先物や短期の国債を中心に投資することで、リスクをさらに低減させる。山口氏は「地銀からのニーズが高く、資産残高は他の戦略と比較しても群を抜いている」という。

 山口氏は「先物取引は為替ヘッジコストが限定的であるため、海外資産への投資においても有利にはたらく。また、カスタマイズ対応もしており、要望に応じてリターンとリスクの比重を変更できる柔軟さを持ち合わせている」とも語る。

 提供している戦略はすべてクオンツモデルによる運用なので、市場が動かない局面や急激な変動局面などでは一時的に影響を受ける可能性もある。山口氏は、「ただし、3地域へ均等にバランス運用を行っているため、例えば2018年2月に市場が大きく動いた際は、米国へ投資する戦略が金利上昇の影響を受けた一方で、国内戦略における株式モデルは急落時に株を持たず、戻りはすべて取るという好調さで各地域が補完し合い、均等分散の効果が発揮された」と強みを示した。

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 日本ではクオンツタイプがマルチアセットの主流となっているが、金利反転の機運の高まりによってジャッジメンタルタイプとの組み合わせやデリバティブなどのヘッジ機能を取り入れた先進的な戦略を志向する動きも出てきている。マルチアセットはどのような進化を遂げるのか。今後に期待したい。