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J-MONEY2018年春号 注目記事

〈特別寄稿〉IPO企業のESG評価

「低いガバナンス」の横並びで平均値は低スコア

大企業によるESGへの取り組みが活発化しているが、株式市場の今後のけん引役となるIPO(新規株式公開)企業の取り組みはどうなのか。IPO企業のESG評価の分析結果を紹介する。

米国では、社会的便益も求める
新しい企業形態が広がる

立命館アジア太平洋大学京都大学大学院 世界的にESG投資の大潮流が押し寄せている。ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスに対する企業の取り組み状況に基づいて投資対象を選別する投資のこと。以前は社会的責任投資とも呼ばれていた。そのルーツは1920年代まで遡り、ギャンブルなど教会の資産運用において教義に則さない事業をしている企業への投資は行わない、宗教的な考え方が根底にある。

 しかし、現在のESG投資は宗教的というよりは、長期的に優れたパフォーマンスを求めるための投資手法として認知されつつある。理由としては企業社会を取り巻く次のような社会的変化が考えられる。

◎企業の外部性が高まっている。すなわち、企業と自然環境や社会との相互依存関係が高まり、それらが企業価値に影響を与えるようになっている。その相互依存関係をESG情報から知ることができる。

◎企業価値においてガバナンスの影響が大きくなっている。経済の変化の速度や不確実性が増している環境のもと、企業の意思決定の質に大きな影響を与えるガバナンス構造は企業価値にインパクトをもたらす重大な要因である。

 以上のような変化の背景には、資本主義そのものに内在する問題があるのではないか。産業革命以降、企業を中心とした資本主義社会は未曽有の成長を遂げてきた。一方、負の側面も顕在化しており、貧富の格差や環境破壊は限界に達していると危惧されている。

 近年、公益資本主義(注1)や再生資本主義(注2)など、資本主義の欠点を社会主義とは異なる観点から問い直す議論も生まれてきている。資本主義に何らかの改良が必要とすれば、その対応の一つがESG投資といえるのかもしれない。

 資本主義がもたらした高度経済成長から最大の果実を享受したのは資本家、つまり、投資家である。もし資本主義が破綻すれば、最も大きな被害を受けるのは投資家である。投資家は、今、真剣に資本主義を持続させる方法を考えるようになったのである。

 米国では、株主利益を求める従来の株式会社に加えて、株主利益のみならず非財務的な社会的便益を同時に求める「ベネフィット・コーポレーション」という企業形態が各州で認められ利用が広まってきている。

新興市場に上場した約260社が分析対象

 一般的にESG投資の対象は、非財務情報のディスクロージャーが整っている上場大企業が中心だが、長期的な観点で企業を選び出すとすれば、株式市場の将来価値の源泉としてIPO企業が注目される。

 IPOを目指す企業は、適格要件として収益性、成長性、安定性などの観点で証券取引所の定める株式公開基準(利益水準や流動性水準などの形式基準に加えて、経営管理レベルを問う実質基準の両方)を満たす必要がある。候補企業は公開の数年前から証券会社・監査法人・IPOコンサル会社などの支援を受けて、経営対応や適時開示を可能にする内部管理体制の整備を行っていく。

 そこで直近で新興市場に上場したIPO企業のESG評価の水準を、事業面とガバナンス面とに分けて分析してみた。分析対象企業は、2014年から2017年の4年間に東証マザーズ市場とJASDAQ市場にIPOした企業約260社である。分析データは、2018年3月時点で利用可能な各社の直近の有価証券報告書(年次)とした。

 事業面(EまたはS)の評価基準は、IPO企業の事業自体がEとSに関わる内容かどうか(例えば、環境や代替エネルギー、高齢化や従業員満足など)を確認し、当該事業が総売上高の50%以上であれば2点、それ以下を1点とした。通常のES評価はESに関わる項目を実施しているか否かを評価するが、本分析では有価証券報告書に記載された公開情報の範囲で、事業内容に注目した評価を行う。

 ガバナンス面(G)では、有価証券報告書からいくつかの観点(取締役会の多様性、監査等委員会や指名・報酬委員会などの設置、社外取締役、執行役員、コンプライアンスやリスク評価などのガバナンス活動)を外形的に評価し指標化を試みた(注3)。その上で、事業面(EまたはS)2点、ガバナンス面(G)3点の合計5点満点とした。

 なお本分析の目的は、直近の有価証券報告書のESG情報、とくにガバナンス情報を分析することによって、過去4年間に株式公開した企業群の「(時系列の変化ではなく)現時点でのESG評価の水準」を分析することにある。

社外取締役の人数は
IPO企業の約半分が「1人以下」

 分析結果を図表にまとめている。2014~17年(4年間)のIPO企業数(ただし東証マザーズ市場とJASDAQ市場のみ)は年50~70社前後であった。

図表 IPO企業におけるESG分析

 企業の事業面を見ると、環境と社会の問題解決に関する事業を行っている企業は毎年5~ 7社(ただし2015年は少なかった)で、環境(E)関係では、再生可能エネルギーの発電・開発・運営、太陽光発電施設や住宅の販売、廃棄物を再資源化した再生樹脂製造販売事業や廃棄物処理、ECサイトを通じたリサイクル品の買取・販売、土壌汚染対策事業、などである。

 一方、社会(S)関係では、ヘルスケアや在宅サービス、顧客満足度・従業員満足度の調査サービス、就労移行支援、児童発達支援等の障害福祉サービス、保育所等の運営を通じた子育て支援、高齢化社会型人材サービス、介護用用具の製造販売といった幅広い製品の製造販売・サービスなどが該当した。件数としては年によって変動があるために4年間のデータで長期の傾向を示すのは難しいが、時代変化を受けた環境や社会の問題解決が事業として成り立っていることは十分にうかがうことができる。

 次にガバナンス面は、以下のような結果となった。

①社外取締役の人数は、政府や東京証券取引所の後押しで近年急増を示し、社外取締役がいない企業は少なくなっている。ただし、対象IPO企業の約半分が「1人以下」という状況である。

②監査等委員会の設置会社も各年10社前後と増えてきている。一方、監査役よりも責任の重い取締役が監査を担う監査等委員会の設置はより評価されるものの、本質的には指名委員会や報酬委員会などとセットで機能することが求められるが、指名委員会(任意を含む)などを設置する企業は数社に過ぎない(注4)。

③女性取締役を置く企業も全体の4分の1程度である。これは海外投資家から「日本企業は企業努力が足りない」と言われても仕方ないレベルであろう。

④執行役員制度は「決定監督と業務執行の分離」を実現するものであるが、各年で10社前後である。またコンプライアンスやリスク管理など、各種の委員会制度を導入する企業は約半数に上るが、有価証券報告書のガバナンス体制図に記載したり、開催頻度まで明記したりする企業はその半分ほどに過ぎない。

 以上から、近年公開したIPO企業の外形的なガバナンス水準は決して高いとはいえない。ただしこれは上場企業全体にいえると推測される。

 最後に、これらの評価を点数化したESG得点を見ると、上場後も各社はガバナンス強化を図っており、現時点での各年の平均値や標準偏差に大きな違いは出なかったが、各平均値は1点前後と非常に低かった。結果として5点満点を獲得した企業は数社に過ぎない。

 平均値が低かったのは約半数が0点であったことが背景にあるが、それは各社のガバナンス対策が低い水準で横並びであったからともいえよう。今後ESG得点を高めるためには、⑴環境や社会の問題に取り組む企業が増えることは当然であるが、⑵ガバナンスの一層の強化が求められよう。参考までに3件の事例研究を上記にまとめた。

 大企業によるESGヘの取り組みは今後ますます高まることが予想されるが、企業価値の向上や社会への影響という観点では、新規企業によるガバナンス強化や環境、社会への本格的な投資が期待される。ESGを単なる小手先の投資手法としてではなく、社会変革の長期的取り組みとして位置づけるべきであろう。

事例研究 1 | LITALICO リタリコ(本社東京)

 日本には障害者が744万人いるが、うち労働可能人口353万人のなかで就業できているのは18%に過ぎない。こうした障害を持つ人の就労支援を手がけるのがLITALICO(リタリコ)である。
 同社は、(1)就労移行支援サービス「LITALICOワークス」事業、(2)ソーシャルスキル&学習教室「LITALICOジュニア」事業、(3)IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」事業などを展開している。上記事業の売上高は、2017年3月期で(1)43億円、(2)40億円、(3)4億円であるが、2018年3月期の業績予想(日本基準:非連結)は、売上高102.5億円(前期87.2億円)、経常利益8.2億円(同6.5億円)である。ガバナンス面では、社外取締役を3人(全員独立取締役)置き、監査等委員会設置会社である。女性取締役が1人、リスク管理委員会は四半期ごとに開催している。また執行役員制度を置き、決定監督と業務執行の分離を目指している。

事例研究 2 | レノバ(本社東京)

 太陽光、バイオマス、風力などを開発し、再生可能エネルギーによる発電事業を本格的に手がけているのがレノバである。
 CO2抑制のための再生可能エネルギーへの関心が高まってきたが、日本では2011年の東日本大震災と原発事故を契機として、新しい再生可能エネルギーの開発が一挙に緊急課題として浮上した。レノバは2000年に創業して、環境分野の調査コンサルティング、2006年からプラスチックリサイクル事業(2016年に事業譲渡)、さらに2012年に太陽エネルギーなど再生可能エネルギー事業を本格スタートさせ、現在バイオマス発電、洋上風力発電、地熱発電なども手がけている。
 業績は2018年5月期予想(日本基準:連結)で、売上115.0億円(前期82.6億円)、EBITDA利益62.0億円(同50.7億円)である。欧米型のガバナンスを念頭に置いて、社外取締役が6人(全員が独立社外取締役で、うち女性1人)、監査役4人による監査体制を取っている。任意の指名・報酬委員会や執行役員制(7人)を置き、今後一層のガバナンス強化を図って行く方針である。

事例研究 3 | MS & Consulting(本社東京)

 近年は市場競争の激化による顧客満足(CS)の向上が求められ、加えて企業側の人手不足から従業員満足(ES)の重要性が高まっているが、覆面で行う顧客満足調査を核にした店舗の営業診断や改善コンサルなどを提供するのがMS & Consultingである。
 同社のサービスは、顧客満足と従業員満足によって業績が向上するというサービス・プロフィットチェーン(SPC)モデルを前提に、ミステリーショッピング調査(MSR)を実施し、その評価結果を利用して接客力や販売力などを強化するとともに、サービスチーム力診断を行うことで定着率やリーダーシップ力の向上を目指している。
 同社は2011年からES診断を提供し、現在43万件を超える調査データを保有。業界や自社内の店舗などとの比較分析が可能となっている。主要なターゲットは小売業とサービス業(とくに宿泊・飲食業)で、2018年3月期の業績予想(IFRS:連結)は、売上収益28.6億円(前期26.4億円)、税引前利益5.6億円(同5.1億円)となっている。ガバナンス面では、社外取締役を3人置き、監査等委員会による監査体制を整備した。またリスク管理委員会を設置し、四半期ごとに開催してガバナンスやリスクに対する意識を高めている。

■注釈

注1:原丈人(2017)『「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉』(文春文庫)文藝春秋

注2:http://capitalinstitute.org/regenerative-capitalism/

注3:ガバナンスの評価基準:(1)評価項目は以下の4つ:①「社外取締役が2人」(東証コーポレートガバナンス・コードで2人以上を推奨)、②「女性取締役が1人」、③「ガバナンスやリスク評価などの委員会が存在」し、かつ有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況等」のセクションで説明や内容の記載があり、年2回以上の開催を明記、④「執行役員制度を設置」。(2)上記評価項目の内2つが該当した場合に最初の1点を付与し、その他項目にも該当があれば各1点を付与する。(3)さらに⑤「社外取締役3人以上」と⑥「女性取締役2人以上」が該当すれば各1点を付与する。(4)ただしGの評価合計の上限を3点とする。

注4:冨山和彦, 澤陽男(2015)『これがガバナンス経営だ!』東洋経済新報社