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ポートフォリオ管理の効率化が課題に

J-MONEY2018冬号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

銀行で広がる脱国債とファンド投資
ポートフォリオ管理の効率化が課題に

貸出の伸び悩みによる収益低下を解決すべく、銀行が国債以外の外国債券や投資信託(ファンド)などへの投資額を増やしている。だが、金融当局の監視が強まるなかで、ファンドに組み入れられたリスクアセットの管理が大きな課題となっている。銀行に求められる運用改革のポイントを整理したい。(田鍋隼)

資産の約4割を有価証券投資に振り向ける銀行も

 2013年の量的・質的金融緩和や2016年のマイナス金利政策導入によって金利が低下を続け、国債の利回りも下がったことで機関投資家による国債以外の資産クラスへの投資が拡大した。野村総合研究所金融ITイノベーション事業本部事業企画室 上級研究員の川橋仁美氏は、「ここ数年で金融法人、とくに銀行による国債以外の有価証券投資が目立ってきている」と注目する。

 多くの銀行が「ポスト国債」となる投資先を決めかねていることもあって有価証券の投資残高自体は減っているものの、2013年以降は外国債券や投資信託(ファンド)、ヘッジファンドといった「その他の証券」への投資が拡大している(図表1)。背景には、長引く低金利の影響で大きな収益源だった貸出が伸びないことに端を発する、銀行の収益力の低下がある。川橋氏は、「銀行の収益確保に有価証券投資の収益は無視できなくなっている。貸出が伸びない地域金融機関は顕著で、銀行によっては資産の約3割を国債も含めた有価証券投資に振り向けている」と明かす。

 銀行にプロダクトを提供する運用会社も動向の変化を実感している。三井住友アセットマネジメント商品部兼株式運用グループシニアマネージャーの手島敬氏は、「金利動向が読みにくいため、金利感応度の高い商品に新規では投資しづらく、銀行内のルールによって低格付け資産での運用も容易ではない。金利とクレジット、どちらのリスクも取りにくい中で、その他のリスクに着目した投資対象への関心が高まっている」と語る。

 一方で、投資額の増加とともに管理しなければいけないファンドの数が増えたことで、ポートフォリオ管理の効率化も銀行の新たな課題になっている。日興アセットマネジメント機関投資家事業本部副本部長 兼 機関投資家営業第二部長の三品雅人氏は、「単体で投資しにくい資産クラスの補完商品から運用改善のためのソリューションへとファンドの位置づけは変わり、リスク管理やそのための情報提供などの付加価値も求められている」と指摘する。

運用難と規制対応のジレンマ
エクセルでの手作業の管理が主流

 2017年12月8日に国際的な銀行資本規制である「バーゼルⅢ」が最終合意に至った。長らく議論が続いていた自己資本比率の分母にあたるリスクアセットの計測方法も決定し、各種の規制は2022年から27年にかけて段階的に導入される予定だ。今後は「ルック・スルー方式」に基づくファンドの裏付け資産把握のための計算方法も変わってくる。

 規制に対応すべく、銀行もポートフォリオ管理の改善を進めるが実情は厳しいという。野村総合研究所資産運用サービス事業部ソリューション企画グループマネジャー 上席システムコンサルタントの古賀智子氏は、「大手地方銀行でも有価証券投資担当は10人前後で、ファンド投資も兼務しているケースが多い。第二地方銀行、信用金庫など有価証券投資に人員を割けない地域金融機関はどこも投資額の増加への対応に限界が来ている」と語る。

 銀行は投資対象資産のリスク測定にあたって運用会社との間でさまざまなデータをやりとりしている。「現在はエクセルを使った手作業での管理が主流だ。実作業は煩雑となり、担当者が2週間近く専従して成り立つ属人的な業務になってしまっている。銀行ごとに必要なデータの種類やフォーマットも異なり、ファンドの情報提供をする運用会社も対応に苦慮している」(古賀氏)

 ファンド投資の拡大と管理の合理化の両立に向けて、同研究所では運用会社向けに提供している基準価額算出システム「T-STAR」を介して、ファンド情報をデータベース上で照会できる「Look-throughHighway」を2018年4月にリリースする予定だ。データベースでは投資対象の分類やデータ項目などが統一されており、銀行と運用会社は1つのフォーマットを基にリスクアセットを管理できる。

 いわば、銀行は運用難と規制対応のジレンマに陥っていると言えるだろう。川橋氏は「戦略的なポートフォリオ構築を進めるには、投資対象の組み合わせが重要だ。個別資産のデータの収集と分析に加え、今後はポートフォリオ単位でのリスク管理体制の整備も必須となる」と警鐘を鳴らす。

ブルームバーグにファンド情報を提供
イベントリスク回避型戦略にニーズ

 銀行のリスク管理の改善に向けて、日興アセットマネジメントでも新たな取り組みを始めた。三品氏は、「当社では2017年12月から、自社で運用するファンドの組入銘柄の情報などをブルームバーグに提供している。ブルームバーグ端末のユーザーであれば無料で閲覧できるうえ、BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)評価やシナリオ分析も可能だ」と説明する。

 リスク管理ツールは数が少ないうえコストが掛かるため、導入するのが難しいケースもある。三品氏は、「サービス提供直後から数行が利用を開始した。その後も多くの銀行から導入を検討いただいており、『画期的だ』との評価も寄せられている」と手応えを感じる。他方で、直近の運用成績に寄与するプロダクトを提供するのも運用会社の責務となる。同社が金融法人向けに提案しているのが「デンマーク・カバードボンド戦略」と「国内株式戦略」だ。

 デンマーク・カバードボンドは格付けがAAAと高く、発行国のデンマークでは金融機関の資金調達手段として広く活用されている。国債よりも流動性が高く、発行額の約8割が同国内で消化されているなど市場の安定さも特徴といえる(図表2)。同社機関投資家営業第二部シニア マーケティングマネージャーの樋野雅浩氏は、「2017年12月時点の米ドルの対円でのヘッジコストは約2%となる。一方、デンマーククローネはマイナス金利の影響で円ヘッジ後のコストがかからず、逆にヘッジプレミアムとなっており、米ドルの円ヘッジ対比で十分な利回りが期待できる。高格付けなのに相対的に高いリターンを得られる点が魅力だ」と語る。

 国内株で同社が提案するのが『日本株式イベントリスク回避型運用戦略』だ。同戦略では、自社開発のリスク管理ツール「リスクセンサー」を用いてマーケットが「リスク相場」かを判定する。現物株のロング(買い待ち)とTOPIX(東証株価指数)先物のショート(売り待ち)を組み合わせ、リスクオン・オフに応じてTOPIX先物の比率を調整しバランスをとる。

 「株式上昇相場では積極的にリスクを取り、下落相場ではリスク回避を狙う。株式上昇相場が続くなか、『マーケットニュートラル戦略のパフォーマンスが振るわないもののベータも取りたい』というニーズを持つ銀行からの関心が高い」(樋野氏)

流動性と収益性の高さ
リスク抑えた日本株アクティブ運用に注目

 三井住友アセットマネジメントは、効率的なリスクテイクを意識した運用を提案する。米ドルのヘッジコストの高まりに加え、2017年に金融庁が海外債券運用のリスク管理強化を促したこともあり、現在多くの金融機関が海外債券への投資や為替リスクを取った投資に慎重になっている。しかし、同社運用コンサルティング部 部長の御手洗由夏氏は、「それでも先進国外債へのニーズは依然として高い。当社ではヘッジコストを抑えて外債に投資する手段として、債券先物でポートフォリオを構築したファンドを提案している」と話す。

 一方、流動性リスクを取る金融機関も多くなっており、インフラや不動産といった低流動性資産に注目が集まるが、「リスクテイクの許容水準にも限度があり、積極的に投資できる金融機関はそう多くない」と御手洗氏。現在進行形で国債の償還が続き、ある程度の金額の投資先が求められるなかで、「取りうるリスクを分散しつつ、換金性と収益性が高い投資対象へのニーズは根強い」と打ち明ける。

 そこで、同社が金融機関に提案しているのが、『SMAM・国内株式高株主還元ファンド(ベータニュートラル型) 〈適格機関投資家限定〉』だ。同ファンドは「配当」と「自社株買い」による株主還元に積極的な銘柄に投資する。企業価値向上のために株主還元の強化が進んでいる昨今、配当だけでなく自社株買いを考慮した銘柄評価をリターンの源泉として重視する(図表3)。金利やクレジットリスクとの相関が低く、マーケットリスクを抑制する運用であるため、「ポートフォリオのリスク分散の観点からも使いやすく、とくに銀行からの引き合いが強い」と手島氏。

 ベータリスク抑制前のマザーファンドの年率リターンは23.38%、年率リスクは13.55%となった(2017年12月末時点)。「今後もバランスシートが健全で株主還元の意思がある企業を選別することで着実なリターンの積み増しを目指す。2017年の日本株は大幅に上昇したが、まだ割安に放置されている銘柄が多くあり、関心を示す顧客が増えている」(手島氏)

                  * * * 
 収益力の確保のために目下の運用成績を良好に保つことは至上命題となっている。金利と株価の水準が大きく変わりつつあるいま、従来以上に効率的なリスクテイクとリスク管理が運用を左右しそうだ。

CIOの視点──欧州の投資機会
消費者需要が欧州経済を後押し
景気敏感株と社債に注目


NNインベストメント・パートナーズ
CIO
ヴァレンタイン・ファン・
ニューウェンハウゼン氏

欧州経済の底堅さに国内外の機関投資家が注目している。来日したNNインベストメント・パートナーズ CIO(最高投資責任者)のヴァレンタイン・ファン・ニューウェンハウゼン氏に欧州の投資機会を聞いた。(取材日:2017年11月30日)

──2017年を振り返って、2018年の欧州経済や景気をどう見ているか。

 欧州経済はこの10年で最高の状態にある。2017年11月のユーロ圏景況感指数は2000年以来の高水準に達したことは記憶に新しい。2010年の欧州債務危機以降、景気後退期に入った欧州では長らく消費者の購買行動や企業の設備投資が控えられていた。今後はそうした積みあがった需要の顕在化が経済を後押しすると予想している。

 ECB(欧州中央銀行)による利上げまでの期間、つまりインフレが始まるまでにはまだ猶予があり、2018年は欧州に投資しやすい年になるだろう。

──マーケットの見通しはどうか。

 株式市場の先行きは有望だ。欧州株のリスクプレミアムは相対的に高く、PER(株価収益率)も低く割安な水準と言えるだろう。欧州は米国に比べて金融、資本財・サービス、素材といった景気敏感株が多い市場なため、投資家は株式投資において景気回復の恩恵を受けやすいと考える。

 債券市場では、国債の先行きがあまり良くない。米国の利上げ継続による株価上昇が欧州の金利水準を押し上げることが想定されるためだ。一方、投資適格社債やハイイールド債は有望視している。従来から欧州企業は、米国企業ほどレバレッジをかけた経営を行わないため財務の質が高いうえ、現状の低金利下で企業は起債コストを低く抑えられる。

──気を付けるべきリスクは何か。

 最大のリスクは投資しないこと、つまり機会損失だ。政治リスクを不安視する声は多いが過度に恐れる必要はない。なぜなら、過去5年を振り返って明らかなようにマーケットは政治よりも経済のリスクを注視しているからだ。

 もちろん、気にかけるべきイベントはある。ドイツ連立政権の行方やスペインのカタルーニャ州独立問題、イタリアの総選挙がそうだ。注目すべきは「ユーロの分裂を引き起こすか?」で、いずれもそうした事態を引き起こす可能性は低い。

──欧州で機関投資家から引き合いの強い投資対象は。

 ESG投資を求める声が年々強まっているのには驚いている。欧州でも拡大しているほかアジアの機関投資家からも要望があり、米国では大学基金も関心を持っている。当社はESG投資が先行するオランダの運用会社で株式のアクティブ型やパッシブ型、債券のほかマルチアセットのESG戦略も提供しているが、いずれも投資家から引き合いが強い。

 欧州の金融機関は私募債やモーゲージローン、インフラなどの低流動性資産に強い関心を持っている。背景にはECBが金融緩和を続けていて市場の流動性が十分に高く、低流動性資産への投資のハードルが下がっていることがある。

 日米の株価が高値更新を続け、欧州も株価上昇が期待されるなか、パッシブ戦略に頼った運用を続けていては、市場平均を上回るリターンを取るのが難しくなることが予想される。地政学リスクの高まりも加味すると、2018年の先進国投資においてはベンチマークとの連動を避けつつリターンを得る「絶対収益型」の戦略が求められると考える。