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経営トップが先頭に立ち実行を

J-MONEY2017年夏号 注目記事

金融庁の資産運用改革の行方

主役はあくまでも金融事業者
経営トップが先頭に立ち実行を

「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)」を旗印に、金融庁が資産運用改革を進めている。
その狙いや進ちょく状況、金融機関の反応はどうか?
金融庁の中島淳一氏の寄稿と、『捨てられる銀行』の著者の橋本卓典氏のインタビューをもとに迫る。(工藤晋也)

国民の安定的な資産形成と顧客本位の業務運営について

金融庁 総務企画局 審議官 中島 淳一氏

我が国は過去35年間にわたって経常収支黒字を続けてきた資産大国であり、1800兆円を超える家計金融資産、200兆円の年金資産などが蓄積されている。人口の減少や高齢化の進展に直面する我が国にとっては、これらの蓄積された国民の富(金融資産)を安定的に増大させていくことが重要になる。

ところが、これまで個人の金融資産が有効に活用されてきたとは言い難い状況にあり、金融庁では国民の安定的な資産形成の実現に向けて、家計、金融機関、機関投資家に対し、さまざまな取り組みを行っている。

国民の安定的な資産形成を図るためには、金融商品の販売、助言、運用などに携わる全ての金融事業者が、インベストメント・チェーンにおけるそれぞれの役割を認識し、顧客本位の業務運営に努めることが重要になる。その観点から、2016年に金融審議会市場ワーキング・グループで、顧客本位の業務運営のあり方について議論がされた。この議論を経て、同年12月に公表された報告書では以下のような内容が示された。

  • これまで、金融商品の分かりやすさの向上や、利益相反管理体制の整備といった目的で法令改正等が行われ、投資者保護のための取り組みが進められてきたが、一方で、これらが最低基準(ミニマム・スタンダード)となり、金融事業者による形式的・画一的な対応を助長してきた面も指摘できる。
  • 本来、金融事業者が自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取り組みを行う金融事業者が顧客から選ばれていくメカニズムの実現が望ましい。
  • そのためには、従来型のルールベースでの対応のみを重ねるのではなく、プリンシプルベースのアプローチを用いるのが有効であると考えられる。具体的には、当局において顧客本位の業務運営に関する原則を策定し、金融事業者に受け入れを呼びかけ、金融事業者が原則を踏まえて何が顧客のためになるかを真剣に考え、横並びに陥ることなく、より良い金融商品・サービスの提供を競い合うよう促していくことが適当である。

この報告書の提言に基づいて、金融庁は2017年3月30日に「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、公表した。

顧客本位の業務運営の定着に向けて

報告書でも指摘されている通り、国民の安定的な資産形成を実現させていくためには、金融庁として、「原則」の策定にとどまらず、その定着に向けて各金融事業者が実効的な取組方針を策定し、実践していくよう、取り組みを進めていく必要がある。その際、金融事業者の対応が形式的なものにとどまることなく、より良い金融商品やサービスの提供を競い合うなど、実質を伴う形での定着が重要となる。

各金融事業者の取り組みでは、経営トップのリーダーシップの発揮、マネジメント層における業務計画の策定・実施・フォローアップ、現場レベルでの実践を通じた浸透・フィードバックなど、各段階に応じた適切な行動が求められる。その際、金融事業者は自らの取り組みが実質を伴う形で定着しているかなどを分析し、経営トップの責任で改善がされるべきと考えられる。

さらに、より良い取り組みを行う金融事業者が顧客から選択され、これをもとに金融事業者が自らの業務運営を不断に見直していくという好循環が生まれるためには、顧客が主体的に行動することが重要であり、金融事業者の取り組みの「見える化」や顧客のリテラシーの向上が求められる。

現状を見ると、2016年からフィデューシャリー宣言を自主的に行っている金融機関がある。しかし、我々は必ずしも宣言通りになっていないのではないかという問題意識を持っている。

例えば、投資対象を特定の種類の資産に限定したテーマ型の商品が、依然販売額上位の多くを占めている。あるいは投資信託の販売額と解約・償還額がほぼ同額である状況が継続し、残高の増加に貢献していない。また、売れ筋投信の9割が毎月分配型であり、とくに地域銀行では積立投信であっても販売額の半分以上を毎月分配型が占めているなど、フィデューシャリー宣言を行った金融機関でも、顧客本位の業務運営の実現に向け必ずしも大きな進展は見受けられない状況となっている。

こうした状況を踏まえ、金融庁としても、金融事業者の取り組みの「見える化」、当局によるモニタリング、顧客の主体的な行動の促進などを通じて、「原則」の定着を図っていきたい。

つみたてNISAの要件を満たす投資信託は全体の1%以下

国民の安定的な資産形成に向けた施策としては、2017年度税制改正において、少額からの長期・積立・分散投資を後押しする「つみたてNISA」を創設した。「つみたてNISA」が国民の安定的な資産形成を支援するという制度の趣旨に沿って運用されるよう、対象となる投信の要件の詳細を定めた告示を2017年3月末に策定した。

日本の投信のうち、この要件を満たすものは現在、公募株式投信全体の1%以下の約50本に過ぎない。現状では、依然として、手数料率が高く、個人の安定的な資産形成には適さない投信が広く販売されている。今後、「つみたてNISA」制度の趣旨や、告示などが定める要件を踏まえ、少額からの長期・積立・分散投資に適した顧客本位の投信が適切に組成・販売されることを期待している。

運用機関による実効的な企業との対話を促す

国民から中長期の資金を託され、株式などで運用している機関投資家には、投資先企業との間で、経営戦略やガバナンスといった諸課題について、深度ある建設的な対話を行うことを通じて、中長期的な企業価値向上を促し、中長期的な投資リターンの拡大に向けて積極的に貢献していく責任があると考えている。

とくに、年金基金をはじめとしたアセットオーナーは、年金受給者などの最終受益者のより近くに位置し、直接その利益を確保する責務を負っている。このような位置付けから、アセットオーナーには、運用機関による企業との対話などがより実効的になるような取り組みが求められている。

他方、アセットオーナーにおいては、企業との対話などを推進する取り組みが一部の大規模な公的年金を中心に行われており、企業年金を中心にスチュワードシップ・コードの受け入れが少ないこと、運用機関に対しどのように企業に働きかけていくべきかを必ずしも明確に示していないこと、などが指摘されている。

こうした現状も踏まえ、2017年5月にスチュワードシップ・コードを改訂した。改訂版では、アセットオーナーが議決権行使を含むスチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を運用機関に対して明示するとともに、運用機関に対する実効的なモニタリングの実施などを求めている。今回の改訂がアセットオーナー、運用機関における実効的なスチュワードシップ活動、そしてコーポレートガバナンス改革の深化につながっていくことを期待する。

顧客との「共通価値の創造」へ

 「顧客本位の業務運営に関する原則」は、国民の安定的な資産形成の実現に向け、金融事業者自らによる主体的な創意工夫を期待するものである。金融事業者が顧客のニーズに応える良質な金融商品やサービスを提供し続けることで、顧客基盤が強固なものとなり、ひいては金融事業者自身の価値向上にもつながっていくというサイクルが、健全な市場競争の下で確立されていくことが望ましいと考えている。

金融庁としても今後、「原則」の定着に向けた取り組みを進めることで、上記のようなサイクルの実現を後押ししたいが、主役はあくまでも金融事業者であることは強調したい。とりわけ、経営トップが先頭に立って真剣に考え、実行に移すことが重要であり、顧客本位の業務運営の定着に向けたリーダーシップの発揮が強く求められている。

金融事業者が、顧客のほうを向いてより優れた金融商品やサービスの提供を競い合い、顧客本位の良質なサービスの提供が広く定着すれば、顧客は「投資の成功体験」を、より享受できるようになるだろう。こうした積み重ねは、顧客との信頼関係を生み、金融事業者自身にとっても安定した顧客基盤と収益をもたらす好循環(顧客との「共通価値の創造」)を実現するとともに、企業・経済の成長と国民の安定的な資産形成へとつながっていくのではないか。