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「森金融改革」の推進、後戻りせず

J-MONEY2017年夏号 注目記事

金融庁の資産運用改革の行方

『捨てられる銀行』の著者に聞く
「森金融改革」の推進、後戻りせず

「情報の非対称性」と
「利益相反」がキーワードに

共同通信社 経済部記者 橋本 卓典氏

──「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)」の定着を図る金融庁の狙いは。
橋本
以前より日本では、フィデューシャリー・デューティーについて「受託者責任」と訳されてきたが、金融庁は「顧客本位の業務運営」と再定義した。この意味を理解するうえでキーワードとなるのが、「情報の非対称性」と「利益相反」になる。

例えば、一般の投資家に対して情報の非対称性で優位に立つ金融機関の担当者が、「お客さまは毎月分配型商品で満足しているので、運用効率の悪さを指摘する必要はない」という姿勢は顧客本位とはいえない。また、運用会社の責務とは魅力的なパフォーマンスの運用商品を提供することだが、親会社である販売会社がより手数料を得られる運用商品を開発するのは利益相反行為になる。情報の非対称性と利益相反のリスクは、金融機関には常に付きまとう。このリスクを適切に管理し、顧客本位となるベスト・プラクティスな金融商品やサービスの実現により、「貯蓄から資産形成」の流れを本格化させようとしている。

──取り組みの成果はあったか。
橋本
「フィデューシャリー・デューティー宣言」を行う金融機関があらわれたのは、大きな一歩だと思うが、取り組みは道半ばだ。

これまではルールで定められた最低基準、いわゆるミニマム・スタンダードを重視し、そこから逸脱さえしなければ容認するというスタンスだった。そのため、かつて投資信託の回転売買の監督強化を打ち出したとき、金融機関は外貨建て貯蓄性保険商品の販売に移行した。このようなイタチごっこに陥らないように、金融庁は個別の商品ではなく、すべての金融サービスに当てはまる「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表した。

同原則を受け入れるかどうかは自分たちで判断する。受け入れるのであれば何をするのか宣言し、受け入れないのであれば理由を説明しなければならない。投資家は、各金融機関の取り組みを見て判断することから、捨てられる金融機関と選ばれる金融機関がはっきりする。金融機関としての姿勢が一段と問われるようになるだろう。

年金基金にも求められる
スチュワードシップ・コード

── 資産運用改革に対する金融機関や金融庁の反応は。
橋本
金融機関は前向きにとらえている。金融庁の庁内では大きな変化を嫌う抵抗勢力も存在するものの、主流派は森信親長官の示した改革を推進する考えで一致している。後戻りはないだろう。

海外でもカナダやニュージーランド、オランダなどでフィデューシャリー・デューティーの取り組みは進んでおり、米国でも退職口座を扱う証券外務員に対して有償で助言を行う場合は、フィデューシャリー・デューティーが課せられるルールを施行する予定だ。欧州のMiFIDⅡ(第二次金融商品市場指令)も、フィデューシャリー・デューティーを念頭に置いた金融規制となっている。

── 年金基金の受託者責任については。
橋本
2017年4月7日に行われた日本証券アナリスト協会の講演で、森長官が「つみたてNISA」に適しているファンドは全体の1%しかないと指摘した衝撃が大きかったようだが、もう一つ重要な話をした。それは年金基金にもスチュワードシップ・コードが求められることだ。金融機関の取り組みの「見える化」が進み、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような公的年金がパフォーマンスをもとに資産運用会社を選ぶ。この考えが他の企業年金にもじわじわと浸透していくと見る。

── 改革後の資産運用業界はどうなるか。
橋本
改革が失敗に終わったときは、国力や国際競争力が失われ、海外からのさまざまな圧力に抗えない悲惨な国になる。逆に改革がうまくいったときには、900兆円の現預金が資産運用に向かうことになる。年1%のリターンでGDP(国内総生産)を1.8%押し上げる効果があるため、日本経済の成長に大きく寄与することになる。