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投資の多様化で金や農地、森林が台頭

J-MONEY2017年夏号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

限られる不動産とインフラの投資先
投資の多様化で金や農地、森林が台頭

不動産やインフラといったリアルアセット(実物資産)投資に取り組む国内機関投資家が増えている。
資産クラスごとに異なる特性を持つリアルアセットのプレゼンスが高まっている背景などについて、
関係者に話を聞いた。(工藤晋也)

オルタナティブ資産の35%を占める
“第三の資産クラス”不動産

海外機関投資家にとってオルタナティブ資産といえば、リアルアセットの一つである不動産が代表格になる。オルタナティブ資産の投資構成比では、PE(プライベート・エクイティ)などを抑え、株式や債券に次ぐ“第三の資産クラス” とも呼ばれる不動産が35%を占める(図表1)。対する国内機関投資家はどうか。年金関連の専門研究機関である年金シニアプラン総合研究機構 主任研究員の樺山和也氏は、「実はいま、国内機関投資家の間でも不動産やインフラといったリアルアセット投資が拡大している」と打ち明ける。

大きな理由は世界的な低金利だ。国内機関投資家の運用先の中心だった国内債券の投資妙味が薄れ、それに代わるインカム資産として目されるようになってきたのが、不動産やインフラである。低金利環境の長期化や政治的、経済的な不確実性の高まりで、投資対象の多様化が進んでいることも、この傾向に拍車をかけている。「国内債券を持ち続けていれば問題ないという時代ではなくなったこともあり、先進的な企業年金では4、5年前から不動産やインフラへの投資が広がっている」(樺山氏)

2017年4月にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、不動産やインフラなどを手がける運用機関の公募を開始。GPIFはカナダのOMERS(オンタリオ州公務員年金基金)との共同によるインフラ投資の実績はあるが、今回初めて不動産にも取り組むことになった。

一致しない自治体と投資家のニーズ
魅力ある物件の民間委託に否定的

一方、国内外の投資マネーの流入で国内不動産市場には優良物件が少なくなっている。このトレンドはインフラも同じで、とくに国内では有望な投資先はほとんど見当たらない状況だ。「海外インフラは為替リスクや政治リスクがあり、さらに、どのような施設に投資しているのか実際に視察するのも簡単ではない。結果として、年金基金や金融法人などの投資家が投資実行にこぎ着けられる事例は、国内外ともに非常に少ない」とケネディクス 執行役員 事業開発部長の内田高弘氏は語る。

なぜ投資先がないのか。それはインフラの民間委託がまだ限定的だからだ。PPP/PFI(公民連携事業)の一種であり、インフラの運営権を官から民に移す「コンセッション」を取り入れた関西国際空港や大阪国際空港、愛知県有料道路などの事例はあるものの、「機関投資家の資金の受け皿になるようなタイプの案件は、ほぼ見当たらない」とスパークス・グリーンエナジー&テクノロジー代表取締役社長の谷脇栄秀氏は指摘する。

樺山氏は、PPP/PFI経由で自治体が委託したいインフラと、機関投資家が投資したいインフラが必ずしも一致していないと見る。「関西国際空港などのバリューアップ型の案件はあるが、年金基金などが求めているのは安定的なインカムが期待できるコア型。日本ではインフラは公共財という意識が強く、魅力的なキャッシュフローが期待できる物件を民間委託することに否定的な風潮がある」(樺山氏)

2015年4月に東京証券取引所がインフラ市場を開設し、現在3つのインフラファンドが上場しているが、いずれも再生可能エネルギー分野と謳っているものの、実質的には太陽光発電ファンドしかない。マーケット規模も小さく、「機関投資家が投資できるボリュームがない。海外インフラしか投資先がほとんどないのが実情だ」とスパークス・アセット・トラスト&マネジメント取締役 インフラ投資部長の志村隼人氏は語る。

インフラファンドを通じて
賦課金還元の資金循環サイクル形成

機関投資家による“国内インフラ待望論” が強いことから、スパークスは2012年に開発段階から投資するグリーンフィールドのインフラファンドを設定した。「当初は国内インフラファンドの黎明期だったためローンも組めなかったが、東京都が官民連携として15億円を拠出してくれたことが呼び水になり、これまでに資産規模で約1400億円の再生可能エネルギーの発電所を開発した。ファンド形態にすることで透明性が確保され、適切なリターンを希求し、ガバナンスも働いている」(谷脇氏)

2017年10月には、太陽光や風力、バイオマスなどの既存発電施設に投資するブラウンフィールドのインフラファンドを立ち上げる予定だ。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は、電力利用者の賦課金で成り立っている。スパークスは、売電収入を分配する形で年金基金や金融法人を通じ、国民に還元する「資金循環サイクル」を形成する考えを持つ。

日本の電源構成は現在、海外からの化石燃料に頼る火力発電所が約90%を占めており、エネルギー自給率は10%程度にとどまる。谷脇氏は、「再生可能エネルギーへの投資により、エネルギー自給率の向上を図るのは社会的な意義も大きい」と強調する。

同ファンドは、途中解約ができないクローズドエンド型で、投資期間は24年間。目標利回りはネットIRR(内部収益率)で年率5%以上を想定している。「既存施設に投資するため、1年目からリターンが得られる。債券や株式などとの相関性はなく、日射量変動幅も20年間で4%弱と国債の変動幅よりも低い。かつ固定価格買い取り制度なので将来のキャッシュフローが読みやすく、エグジット時の市況を気にする必要はない」(志村氏)

スパークスの試算によると、全国の自治体や国が保有している料金収入を伴う資産だけでも192兆円強の規模になる。「こうした社会インフラを官の財政で整備する時代は終わった。これからは民間資金を活用していく時代に入る。海外のインフラもいいが、まずは投資によって国内インフラをより魅力ある形にし、安定したキャッシュフローを実現していきたい」とのビジョンを谷脇氏は描く。

米国とアジアの不動産にフォーカス
REITを糸口に投資拡大を目指す

「国内インフラに投資したくてもできない状態」に対して、ケネディクスも国内インフラファンドを立ち上げた。それが『ケネディクス自然電力ファンド』だ。太陽光発電所をはじめ、全国の再生可能エネルギー発電所を投資対象としたブラウンフィールド型のファンドで、最大80億円の出資額を予定。総資産規模は500億円以上を見込んでいる。ケネディクスは、このファンドを中心に、再生エネルギーで1000億円のAUM(運用資産残高)を目指す。

「上場インフラファンドを目指す選択肢もあったが、ケネディクスの既存の運用プラットフォームを有効活用できる私募ファンドで運用をスタートした。再生可能エネルギー分野の知見がある金融法人などが本ファンドに投資しているが、別にセパレートアカウント(特定の投資家専用の運用口座)のファンドを組成することもできる。固定価格買い取り制度によって20年間にわたって安定的なインカムが得られるため、年金基金のニーズに合致した投資先ではないか」と内田氏は力を込める。

不動産投資の分野では海外に目を向ける。国内不動産の投資機会が少なくなっており、利回りも下がっているためだ。同社がフォーカスしているのが「米国」と「アジア」の不動産。このうち米国では、現地の不動産会社との提携を模索している。一方、重点的に経営資源を配分しているのが、高い成長のポテンシャルを秘めているアジア。とはいえ、日本の機関投資家を呼び込むには少々ハードルが高いため、手始めに情報開示が徹底され、運用の透明性が高いREITを活用した投資機会を提供する考えだ。

 「我々はREIT市場のあるマレーシアやタイなどでの事業展開を考えている」と内田氏。すでにマレーシアでは、日本企業として初めてREITのスポンサーになり、タイでは現地の不動産開発会社に出資している。「世界の不動産市場は、互いに相関性が高まっているが、国内の不動産市場ではあまり見かけないエキゾチックな投資機会があり、また国の経済成長に応じた資産価格の上昇も期待できる」(内田氏)

金価格は米利上げ後も高い水準を維持
イスラム教徒やSNSからも資金流入

リアルアセットの一つである「金」はどうか。利息や配当を生まないことから、不動産やインフラより注目度は低かったものの、「その状況が変わってきた」と語るのは、ワールド ゴールド カウンシル顧問の森田隆大氏だ。

金価格は金利と逆相関の関係にある。通常であればFRB(米連邦準備理事会)の利上げによって金価格は下落するが、2016年12月にFRBが追加利上げを実施し、翌2017年1月にNYダウが史上初めて2万ドルを突破しても、金価格は高い水準を維持している。「2017年7月10日時点では、リーマン・ショック時の900ドルより、むしろ300ドルほど高い価格になっている。リーマン・ショックで逃避資金が集中したピーク時を例外とすれば、金価格は緩やかに上昇している」(森田氏)

大きな要因は、米国経済政策の先行きに不透明感が漂っていることと、日銀のマイナス金利政策によって投資魅力が低下した国内債券の代替資産と見られていることだ。実際に日銀がマイナス金利政策を発表した2016年1月を境に、金ETFの需要は急激に高まっている。

金には新たな資金の流入も見込まれている。これまでイスラム教徒は、宝飾品などに使われる金現物の取引は可能だったが、金鉱山株などへの投資はできなかった。しかし、2016年12月にAAOIFI(イスラム金融機関会計監査機構)がイスラム法上の基準を明確化したことで、イスラム教徒による金の現物に裏付けられた金融商品や金鉱山株への投資ができるようになった。

中国では、SNS(交流サイト)を通じた少額の金投資が広がっている。森田氏は「世界で10億人以上の人が利用する微信(ウィーチャット)やアリババ集団などのSNSを通じて手軽に金投資ができるようになり、世界16億人のイスラム教徒の参入とともに金の需要増をもたらすだろう。対する供給面では金鉱山の採掘量がこれから徐々に減っていく。需給ギャップのタイト化は金価格のサポート要因になる」との見立てを示す。

規模と売買金額において世界最大級
グローバルブランドの金ETF

金投資の有力なアプローチといえば金ETFだ。「現物の金地金に比べて、証券取引所に上場しているので株式と同様の保管や受け渡しができ、取引コストも安い。リアルタイムで価格や売買の動向をモニターでき、幅広い投資家層が参加しているなどの利点がある」と、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ ETF営業部 部長の杉原正記氏は説く。

同社が提供する『SPDRゴールド・シェア』は、2004年11月に米国初のコモディティETFとして上場。日本の東京証券取引所にも2008年6月に上場している。保有する金は、世界有数の金融機関であるHSBC銀行のロンドンの地下金庫で特定保管されており、ワールド ゴールド カウンシルの完全子会社が同ETFのスポンサーを務める。

2017年6月末時点での運用資産残高は約340億ドル、米国における1日当たりの平均売買金額は約9.5億ドルと、規模と売買金額において世界最大級の金ETFになる。「『SPDRゴールド・シェア』は、欧米や日本を含むアジアにも投資家を抱えるグローバルブランドだ。投資のスタイルや期間が異なるさまざまな投資家がいるため、一部の投資家による大量の売買注文があっても十分に対応できている。金ETFの選択肢はいくつかあるが、仕組みの安全性、規模と流動性の面で世界の投資家から評価されている」と杉原氏は話す。

不動産に次ぐ認知度の農地と森林
品種や地域の分散でリスク低減図る

リアルアセットのなかで不動産に次ぐ認知度を誇る農地と森林(図表2)。樹木の成長や土地の評価額上昇による資産価値向上と、1年性(麦、トウモロコシ、綿花など)や永年性(ナッツ、クランベリーなど)作物の収穫が収益源泉となる。世界的人口増に伴う食料・住宅ニーズの増加が期待されるとともに、伝統的資産と相関が低く、インフレヘッジにもなる。「すでに日本国内でも、一部の年金基金などが投資している」と語るのは、マニュライフ・アセット・マネジメント・グループのハンコック・ナチュラル・リソース・グループ(HNRG)ディレクターのニック・ピン氏だ。

図表2 資産クラス別リアルアセットの認識度

HNRGは、北米のほかオーストラリア、ニュージーランド、ブラジルなどにも拠点を構える。「当社の強みは機関投資家を対象とした世界有数の森林・農地投資運用会社であり、スケールメリットを生かした物件購入および世界各地への分散投資が可能な点。加えて、農地や森林のスペシャリストを多数抱える自前の運営管理会社を持っており、効率の高い運用ができる」とピン氏は述べる。

農地と森林は互いの相関も高くない。「輸出先が地域や品種により広く異なるなか、それらを分散させることで、より安定したリターンが得られる」と、マニュライフ・アセット・マネジメント 機関投資家営業部ディレクターの前田克氏は説明する。

 農地では天候やリース先のデフォルトリスク、森林では木材価格の変動や森林火災などのリスクがあるが、品種・地域の分散および運営管理の徹底によりこれらの大部分を回避でき、30年超の実績のなかで過去の損害は微小にとどまる。「農地や森林には分散投資のメリットだけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)の意義もある。今後さらに注目される投資分野になるだろう」と前田氏は語った。

 国内債券の代替や投資対象の多様化などの目的で広がるリアルアセット投資。低金利環境や先行き不透明感が払しょくされない限り、リアルアセットの存在感はますます高まっていくだろう。