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「エンゲージメント」が主流に

J-MONEY2017年春号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

対話や議決権行使でESGの改善促す
「エンゲージメント」が主流に

「ESG(環境・社会・企業統治)」の要素を運用に取り入れる動きが日本でも活発化してきた。ESG投資の関心が高まっている背景や今後の展望などを関係者に聞いた。(工藤晋也)

国連のPRI呼びかけがESG投資拡大の起点に

 近年、急速に存在感を増しているESGだが、その歴史は意外と古い。いまからおよそ100年前、1920年代に米国のキリスト教会でタバコやアルコールなどに関わる企業を投資対象から外すネガティブ・スクリーニングが始まりとされる。

 1960年代から1980年代にかけては、ベトナム戦争やアパルトヘイトなどに関係する企業に対して投資回避や事業の見直しを求めていく今日のSRI(社会的責任投資)の形ができあがる。その後、SRIの視点で投資先企業を選定するSRIファンドが登場したが、パフォーマンスの面で魅力的とはいえず、あまり浸透しなかった。

 ただし、SRIによってESGの発展の土壌は整う。2006年に当時の国連事務総長のコフィ・アナン氏が、ESGの要素を投資の意思決定プロセスに組み込むなどの投資原則からなる「PRI(責任投資原則)」を提唱し、ESGの考えは瞬く間に広まった。

 PRIの署名機関も着実に伸びている(図表1)。2017年3月31日時点で344のアセットオーナー、1148のインベストメント・マネージャー、226のサービス・プロパイダーの計1718機関が署名。運用資産総額は約60兆ドル(約6600兆円)にのぼる。

 国別では英国や米国の署名機関は200を超えている。一方の日本は14のアセットオーナー、30のインベストメント・マネージャー、11のサービス・プロパイダーの計55機関の署名にとどまっているものの、「日本でもESGへの注目度は徐々に高まっている」と高崎経済大学教授の水口剛氏は話す。

 日本におけるESG拡大のきっかけになったのが、2014年8月に発表された「伊藤レポート※」だ。「投資家のショートターミズム(短期志向)化を改めるため、ESGなどの非財務情報を含めた中長期の情報開示の必要性を訴えたことが大きい」と三井住友アセットマネジメント スチュワードシップ推進室長の齊藤太氏は話す。

 もう1つは、2015年9月にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したこと。伊藤レポートで非財務情報への関心が高まり、世界最大級の運用資産を誇るGPIFがPRIに署名したことでESGの流れが加速した。

 現在、ESGの投資アプローチにはさまざまな手法がある(図表2)。代表的なのが「ネガティブ・スクリーニング」や「インテグレーション」、「エンゲージメント」だ。なかでも将来的には、「投資先企業との対話や議決権行使などを通じてESGの改善を働きかける『エンゲージメント』が主流になっていく可能性が高い」と水口氏は語る。

ESG評価でリスク抑制とリターン追求を両立

 ここからは各運用会社のESGの取り組みを紹介していく。

 三井住友アセットマネジメントは、2009年に投資プロセスにESGの要素を取り入れたインテグレーション型のESGファンドを設定。特徴はESG評価を通じてリスク抑制とリターン追求の両立を目指しているところになる。

 ほかにも3本のESGファンドを開発している。そのうちの1本がESGインデックスファンドである。「GPIFがESG指数を公募したが、その指数が正式に採用されれば、すぐに運用開始できるように準備している」と齊藤氏は打ち明ける。もう1本は、企業価値向上の目安になるエクイティスプレッドにフォーカスした、アクティブ型のESGファンドだ。このファンドはすでにパイロットファンドが動き出しているという。最後が、クオンツ型のESGファンドだ。ESG評価をベースとした計量的手法により、リスクの抑制とリターンの追求を両立した運用を目指す。近いうちにパイロットファンドを立ち上げ、テスト運用を始めるという。

 同社は2015年にフィデューシャリー・デューティー宣言を発表。運用責任を全うするために「SRI、ESG投資で日本のトップランナーを目指します」などの方針を掲げている。齊藤氏は「この方針に基づいてESGの投資手法を他のファンドにも積極的に取り入れていきたい」との思いを持っている。

責任投資の体制を整備 ガバナンス強化と判断力の向上を狙う

 野村アセットマネジメントでは2001年の議決権行使委員会設置以降、長年に渡り責任投資に関する取り組みを全社的に進めている。最近では海外でもスチュワードシップ・コードの導入が進むなど、グローバルな取り組み強化が求められるようになり、海外拠点も含め全体を統括するための専任部署を2016年4月に設けた。委員会体制も責任投資委員会に一本化するとともに、利益相反管理方針の策定や第三者による監視体制の強化として責任投資諮問会議の設置などガバナンス強化にも力を入れている。

 「最近は、企業アナリストとESGスペシャリスト、運用者との連携を強化している。財務と非財務の視点を融合させることで、企業との対話がより充実したものになるとともに、企業価値の判断クオリティ向上にも効果が見られる」と同社責任投資調査部部長の今村敏之氏は話す。

 議決権行使では2016年に、外部で採用している助言会社を複数化させた。今村氏は「一番重視したのは、株主利益の視点を忘れず自らのポリシーで正しく判断すること。適切に判断すれば利益相反も適切に管理されるはず。そのために多様な論点を確認できるようにした。ガバナンス強化のために導入した仕組みが、結果的に我々の判断力の向上につながっている」と一連の取り組みに手応えを感じている。

全運用資産残高の30%以上が ESG 投資を活用

 ニューバーガー・バーマンは、1940年代にネガティブ・スクリーニングを開始。1989年にSRIチームを設立するなど、ESGの要素をいち早く投資プロセスに導入している。現在、社内リサーチ部門によるESG関連のさまざまな分析を全投資チームが活用可能となっており、2016年12月末時点で運用資産残高の30%以上がESG要素による評価を取り入れた投資となっている。

 ESGにフォーカスした戦略には「米国優良株式厳選投資戦略」がある。徹底した個別銘柄分析とESGスクリーニングで、中長期の持続的成長が見込める優良企業のなかからベスト・イン・クラスの30~40銘柄に集中投資している。同社プロダクト管理部長の藤森理恵氏は、「1991年の運用開始から、25年超のトラックレコードを持つ。運用開始来、ベンチマークのS&P500指数に対して超過リターンを出しており、長期で優れた実績がある」と話す。

 もう1つは「エマージング債券戦略」である。一般にエマージング市場の場合、個別の地域・国によって特性が大きく異なり、情報開示も十分でないため、ESG要素を投資判断に組み入れるのが難しいといわれている。しかし、同社は2011年後半よりエマージング諸国のソブリン債分析にESGの要素を本格的に導入。そこで得たノウハウと、ESG専門の投資調査会社との共同調査からの知見を活かして、ESGに配慮した「エマージング債券戦略」の提供を可能にした。現在は、エマージング社債の運用においてもESGの要素を加味した分析を行っている。

 「エマージング社債の投資プロセスにESGの要因を取り入れたのは、画期的であると考えている。当初、投資調査会社がカバーする企業は、運用チームが投資ユニバースとする企業の約半分にとどまっていたが、現在は90%以上をカバーするまでになっており、データの精度も向上している」と藤森氏は語った。

経営の透明性など定性面を重視 対話を通じて4段階に評価

 コムジェストの運用の特徴は、質の高い成長(クオリティグロース)が見込める銘柄に集中投資することだ。クオリティグロース企業を選別する際に、財務分析だけでなく、ESG分析も投資プロセスに導入している。

 例えば、ESGに対する各企業の取り組み調査・分析をもとに、投資ユニバースへの追加や除外を判断。企業との直接的な対話などを踏まえて、ESGクオリティレベルを4段階で評価している。このESGクオリティレベルをもとに株価の理論値を計算する際のディスカウントレート(割引率)を決定している。

 「ESG評価会社のサステナリティクスをはじめ、6社のデータも活用しているが、最終的には定性的な要素が大きなウェートを占めている。企業の持続的な成長や経営の透明性などの定性的な部分を重視しているからだ」とコムジェスト・アセットマネジメント代表取締役の高橋庸介氏は話す。

 同社ではエンゲージメントの段階で、ESG専門アナリストと当該企業担当アナリストが一緒に投資先企業を訪問。さらに投資先を絞り込むことで、一社に対してより深いリサーチが行える体制を整えている。「日本株の投資ユニバースは80~100銘柄、日本株専属のポートフォリオマネジャーが4名なので、1人が見る銘柄は20銘柄程度だ。あまり銘柄を入れ替えないことから、長期にわたって保有している銘柄もある。経営者の性格など、財務面だけではわからない定性的な分析ができるのが当社の強みといえる」と高橋氏は語った。

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 ESG投資は環境や社会的な問題を解決に導くだけでなく、投資先企業や投資家、そして経済の発展に資する「三方よし」ならぬ“四方よし” の投資手法として定着するのか。今後もその推移を追っていきたい。