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金融業界をどう変えるか?

J-MONEY2017年春号 注目記事

個人向け非課税投資の可能性

特別対談 「iDeCo」と「NISA」は
金融業界をどう変えるか?

年間投資上限額40万円・非課税保有期間20年間という「積立NISA(少額投資非課税制度)」の創設が決まり、「iDeCo」の愛称が付けられた「個人型確定拠出年金」は加入対象者が拡大されるなど、個人投資家にとって長期の資産形成に取り組みやすい環境が整ってきた。「iDeCo」と「NISA」の現状や今後の課題などについて、日本証券業協会会長の稲野和利氏と投資信託協会会長の白川真氏に藤沢久美氏が聞いた。

ロールオーバーの上限額撤廃
制度の恒久化は粘り強く要望

藤沢 NISAの制度開始から3年が経った。

稲野 2016年末時点でNISAの加入者は1069万人、買付額は9兆4700億円にのぼる。加入者はNISA対象者の約10%に当たるので、かなり浸透してきたのではないか。口座稼働率も当初の4割から6割まで上昇したが、もっと伸ばしていきたい。

 現行制度では、5年間の非課税期間終了時の株式・投資信託などを翌年の非課税投資枠に移管(ロールオーバー)できるのは120万円までだったが、平成29年度税制改正大綱では上限額が撤廃された。非課税期間の恒久化などは見送られたが、5年間の非課税期間では長期投資を支えるには短いことから、今後も粘り強く要望していく。

 2016年4月から始まったジュニアNISAは、12月末時点の口座開設数は19万口座、買付額は290億円と、NISAと比べると規模はかなり小さい。制度の仕組みが複雑なのが最大の理由だが、高等教育の資金づくりなどにつながる意義のある制度なので、これからも普及に努めていきたい。

白川 NISA口座の稼働率6割というのはまずまずといったところだろう。ジュニアNISAは投資を通じて子どもや孫への愛情を表現できる制度であり、世代間の資産移転にもつながる。子どもがお金について考えるきっかけにもなるだろう。

藤沢 NISAの認知率は8割ともいわれている。

稲野 業界全体で取り組んだ成果だ。CMを流し、さまざまなメディアにも取り上げてもらった。NISAで初めて口座を開設した投資初心者の割合は3割程度と、投資の普及にも寄与している。

対象者は6700万人に拡大
「兼務規制」は見直しが必要

藤沢 iDeCoはどうか。

白川 2016年にiDeCoと命名されたが、確定拠出年金(DC)という制度自体は2001年からある。DCには個人型と企業型があり、このうちの個人型がiDeCoになる。2017年1月より公務員や専業主婦なども加入できるようになったことで、対象者は4000万人から6700万人に拡大した。

 DCの規模は、2016年3月時点で加入者は576万人、運用資産総額は10兆7900億円になる。そのうちの44%の4兆7000億円が投資信託である。つまりDCの半分超は、定期預金や保険などの元本確保型商品で運用していることになる。

 このうちiDeCoでは、掛け金の拠出がなく運用の指図のみを行う運用指図者を含めた加入者は73万人になるが、実際に掛け金を拠出しているのは26万人にとどまる。加入可能対象者数に対する実際の加入比率も0.6%と極めて低い水準にあるので、この加入比率をいかに上げるかが今後のカギになる。

藤沢 実際に運用している商品の大半が元本確保型商品という状況をどう改善していくのか。

白川 現在、加入者が運用指示をしなかった場合に自動的に買い付けるデフォルト商品を、約6割の企業が設定しているが、ほとんどはその対象商品に元本確保型商品をデフォルト商品にしている。一方、欧米ではライフサイクルの変化に合わせて、ファンドのリスク量を調整するライフサイクル・ファンドなどがデフォルト商品に指定されている。

 日本の場合、企業型DCを運営している事業主のなかには、運用責任を負うと勘違いし、元本確保型商品にしているところもあるので、法令解釈通知等で明確化するなど、デフォルト商品の制度趣旨をわかりやすく説明する必要がある。

藤沢 日本証券業協会ではどのような普及活動を考えているのか。

稲野 当協会独自にやるケースもあるし、厚生労働省と協力するケースもある。個々の証券会社なども浸透を図っているので、我々も知恵を出していきたい。第1号被保険者である自営業者は全国で1千数百万人いるが、このうちDCの加入者は7万人に過ぎない。自営業者は国民年金しか加入できず、一方、DCは月額6万8000円まで積立できるが、制度そのものを知らない可能性もあることから、自営業者にフォーカスしたPR活動もあり得るだろう。

 とはいえ、現状ではシステムコストの問題に加えて、一人の販売担当者が制度としての個人型DCと具体的な金融商品を一緒に説明できない兼務規制もあって取扱金融機関が少なく、NISAのような業界一体のPR活動は難しい。DCの普及促進のためにも、兼務規制を見直してもらう必要はある。

白川 DC事業を軌道に乗せることは、多くの金融機関にとって息の長い仕事となるが、20年後、30年後を見すえて、DCに取り組む金融機関が増えている。

アジア諸国の販売連携
「ARFP」で海外投資が身近に

藤沢 日本の証券業界におけるリテールビジネスの現状は。

稲野 リテールビジネスは厳しい環境下にある。主要顧客の高齢化が大きな理由だ。新たな顧客層を開拓しなければという問題意識は持っているものの、なかなか実現できていない。

 とはいえ、かつては投資信託などを買うにはそれなりの資金が必要だったが、いまは1000円単位から始められるようになった。株式投資も単元未満株やミニ株などのように比較的手軽に購入できる仕組みもあり、NISAやジュニアNISA、DCなどの長期の資産形成に適した制度と絡めて、新たな顧客層を開拓しやすい環境は整ってきた。

 REIT(不動産投資信託)をはじめ、以前より商品ラインアップは豊富になり、タブレット端末のような後方支援ツールも充実してきた。しかし、残念ながら現場の方たちが十分に使いこなしているとはいえない。豊富な商品ラインアップや後方支援ツールを使いこなすスキルが身に付き、後方支援ツールがさらに拡充されれば、新しい顧客層にアプローチしやすくなると思う。

藤沢 資産運用業界で注目している動きは。

白川 国を挙げて国民の資産形成を推進していることから、運用業界に対する期待が高まると同時に業務品質向上への要求も強くなっている。それに伴って各運用会社では「投資信託のさらなる信頼向上」を目指し、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の宣言や独立社外取締役の選任など、経営やファンド運営のガバナンス、透明性の強化に努めている。

 今後の動きでは、アジア地域ファンドパスポート(ARFP)の制度整備がある。これは条件を満たした参加国間であれば、ファンドを相互に販売できる制度で、現在は日本を含めたオーストラリア、韓国など5カ国が署名している。海外ファンドが国内販売できることで、投資家には投資の選択肢がさらに広がり、運用会社には海外の販路を拡大するチャンスになり得ると考える。

稲野 ARFPでさらに投資の選択肢が増えるのは証券業界にとっても非常に良いことだ。多様な選択肢のなかから、いかに自分に合った金融商品を選ぶかが重要になる。その時にコストも1つの判断材料だが、最終的なリターンの要因は、金融商品の性能とコストになることから、性能論議とコスト論議のバランスをとる必要があるだろう。

「多品種少量生産」では
情報提供がますます重要に

藤沢 後方支援ツールや金融商品は充実したが、販売員のスキルや投資家のリテラシーがまだ不足している。

稲野 証券業界も投資家もともに長期の資産形成における成功体験が少ないからだ。長期の累積的な成功体験が得られる方法論を開発し、成功体験が蓄積されていくと状況は変わっていくのではないか。

白川 米国では30年間で金融資産が6.5倍になったが、日本は3倍に過ぎない。最大の理由は米国のマーケットが30年間上がり続けている一方で、日本はアベノミクスが導入されるまで30年間下がり続けていることが挙げられる。

 米国ではS&P500に連動するインデックスファンドに投資していればプラスになったが、日本では日経平均株価に連動するインデックスファンドに投資しているとマイナスになっていた。日本では、こういう真実も踏まえたうえで貯蓄から資産形成に誘導していくことが重要だ。

藤沢 これからの資産運用業界はどうなるか。

白川 投資初心者に適した商品を提供していくと同時に、経験の豊富な方のニーズに応える金融商品も別途提供していくことが重要になるだろう。

藤沢 世の中の多くのビジネスでは「多品種少量生産」の傾向にある。資産運用業界も同じで、投資信託の種類が増えていくのは必然的といえる。したがって今後は、顧客に対する情報提供やアドバイスなどの業務がますます重要になっていくのではないか。

白川 これからはたくさんある商品を、いかに選びやすくするかがポイントになる。iDeCoで取り扱う投資信託の本数を絞り込むという議論は、入り口のハードルを下げるという意味では良い。しかし、投資初心者の方が知識をつけたときに投資対象が少ないのはかえって利益を損ねてしまうかもしれない。投資対象は多くして、簡単に選べる仕組みをつくることが制度や業界のさらなる発展に寄与すると思う。