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J-MONEY2016年春号 注目記事

海外レポート

日欧・米の金融政策かい離は中断

M・コーリー・ゴールドマン(M. Corey Goldman)
カナダを拠点に北米経済全般・資本市場をカバーするフリーの金融ジャーナリスト。以前は、ブルームバーグ・ニューズ、CNN、トロント・スター、カナダ・フィナンシャル・ポストなどで取材・編集を担当。社会奉仕活動ではHelp For Children/Hedge Funds Care(ニューヨーク)役員を兼任。

マイナス金利は政府日銀の決意表明

 FRB(米連邦準備理事会)は2016年3月中旬のFOMC(連邦公開市場委員会)で、世界経済の先行きが不透明であることを理由に金融政策の現状維持を決め、追加利上げを見送った。日本銀行と安倍政権は大きなため息をついたに違いない。ある程度予想されていた追加利上げの先送りによって、当然ながら、FRBと日欧の中央銀行の間の「政策かい離」は一時的に中断された形になっている。

 FOMC会合の1カ月半ほど前の1月29日、日本銀行は「マイナス金利」の導入を決めた。それにより日米間の短期金利の差は拡大した。日銀は、何のために日本金融史上例のないマイナス金利政策に踏み切ったのだろうか。FRBが2015年12月に9年半ぶりに利上げを行ったにもかかわらず円高傾向が続いたため、日銀は円安の流れに戻そうとしたのだ。単純化していえば、その狙いは、通常の為替レートを円安にする(実質実効為替レートは1970年代前半以来の円安になっている)ことで、輸出を増やし、景気を刺激し、インフレの流れを促すというものだ。

 日銀のマイナス金利発表には投資家へのメッセージも込められていた。それは次の3点だ。①安倍晋三首相は「アベノミクス」を引き続き掲げていく②「ユーロのためにあらゆる行動をとる」と宣言しているマリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)総裁に負けない気概が日銀にもある③日銀の2%の物価目標達成へのコミットメントに変わりがない。

日本経済の早期回復期待に水を差したFRB

 日銀がそこまで力を入れた未曾有の政策は、2016年3月16日のFOMCで利上げが見送られたばかりか、FRBが年末までは利上げを行わない可能性まで浮上して、完全に頓挫してしまった。FRBの動きは米国の政治状況を考えれば予想できたことだ。米国は11月の投票日に向けて大統領選挙一色となり、候補者も有権者も景気動向にさらに敏感になる。そのなかでFRBがわざわざ金融引き締めに動くことは常識的には考えにくい。

 ロサンゼルスに本拠を置くコンサルティング会社ケクセリアスの創業者で投資アナリストでもあるビクター・シン氏は、FRBの金融引き締めへの慎重姿勢が「日銀のマイナス金利付き量的・質的金融緩和の効果を削いでいるのが現状」だと指摘する。なお、シン氏は以前、1.1兆ドルの資産運用残高を誇るキャピタル・グループで債券アナリストを務めていた。

 「米ドルを支えてきた金融政策のかい離はピークを打った」(モントリオールの経済調査会社BCAリサーチの3月21日付レポート)との見方も広まった。瀕死の経済(moribund economy)を再生させようとする日本の努力の姿勢を投資家やストラテジストに改めて見せるのは、2杯目の苦いお茶を飲むことを勧めるようなものだ。1990年代前半以来、世界の投資家は「今度こそ日本経済は危機を脱するかもしれない」と思い、日本の景気復活の流れに乗ろうと何度も試みてきた。そして、その都度、苦い思いをしてきた。

 日本経済が20年以上も低迷したままだった真因をめぐる議論は未だに続けられている。今の日本についても、デフレからの脱却と経済再生を目指して「アベノミクスをさらに進化させていく」と繰り返す安倍首相だが、アベノミクスへの懐疑論は根強い。

 もちろん、多くの人々が日本の現政権による過去3年間の経済政策をポジティブに評価している。しかし、FRBの最近の動きが日本経済の早期回復への期待に水を差してしまった。

サプライズだが景気浮揚効果なし

 FOMCの3月会合以降、マイナス金利をめぐる議論が再燃している。マイナス金利によって、消費者や企業が銀行に預けたままにしてある貯蓄を狙いどおり消費や設備投資に回すのか、さらに投資家の円離れにつながるのかが争点である。

 世界金融危機が2008年に発生し、各国の経済が大打撃を受けた当時でさえ、マイナス金利政策の導入を考えた中央銀行は皆無だったはずだ。歴史上、マイナス金利政策を必要とする時代は一度だけあった。それは、1929年の株式大暴落で始まった大恐慌のときの米国だった(しかし、当時のFRBは、金融緩和ではなく金本位制を守るために金融引き締めを行った)。

 2010年から2011年にかけて実質金利がゼロに近づいたとき、FRBとECBは「市場との対話」を通して利上げを行うことはないと伝え、金融緩和のスタンスを維持した。FRBは2012年にQE(量的緩和策)を導入して、世界経済のリセッションからの脱却促した。

 金融緩和で米国などへの投資意欲がわかない投資家は、安全資産といわれる円買いを続けた。それは、円安の流れをつくってデフレからの脱却を促そうとする安倍首相にとっては強い向かい風となった。

 ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメント(本社米ペンシルバニア州フィラデルフィア、運用資産5650億ドル)のチーフ・グローバル・ストラテジスト、チェン・チャオ氏は日銀が打ち出したマイナス金利政策についてこう述べる。

 「日銀のリフレ政策が日本の景気浮揚にほとんど効果がないことはほぼはっきりしている。マイナス金利政策は、景気浮揚に不可欠の円安をもたらしていない」

 FRBが2015年12月に利上げを行ったことで、市場の混乱は新年早々まで続いた。それは、投資家による円売り・ドル買いを促し、日本経済には短期的にポジティブな影響をもたらした。その流れに拍車をかけようと、日銀はマイナス金利導入というサプライズを仕掛けたわけだ。

 しかし、日銀の狙いは劇的に外れてしまった。その理由を、ケクセリアスのシン氏はこう説明する。

 「市場はFRBによる年内の利上げ回数を当初の見通しから大幅に減らした。2015年12月の時点では、市場では、2016年にFRBは4回利上げを行うという見方が大勢を占めていた。しかし、FOMCメンバーの多くが2016年の利上げ回数は2回と示唆したため、市場は当然、当初見通しを変えた」

米利上げの話自体が「ばかげている」との声も

 日本のCPI(消費者物価指数)には国内景気が上向いていることを示す兆候は全く見られない。2016年2月のCPIは2カ月連続の横ばいで、黒田東彦日銀総裁が目指す2%の物価目標には遠く及んでいない。

 2月のCPI発表を前に三菱UFJリサーチ&コンサルティングのシニアエコノミストの小林真一郎氏はブルームバーグ・ニュースに、「物価指数はまだ底を打っておらず、さらに下がるだろう。黒田総裁が(2%の)物価目標を達成できないことが徐々に明らかになりつつある」と語っている。

 世界経済、特に米国と中国の経済が2016年に安定に向かうかは現時点では不透明だが、FRBが引き続き利上げの話をしていることが「まったくばかげている」(チャオ氏)という見方は、ストラテジストと投資家の間で共有されていることは確かだ。

 そうした新たな市場環境のなかで、日銀は今後どのように動くのだろうか。円安を誘導すると同時に、消費者と企業に資金を貯蓄ではなく消費と設備投資に回すことを促す手段として、マイナス金利をさらに引き下げるのだろうか。

 モルガン・スタンレーMUFG証券のチーフエコノミスト、ロバート・フェルドマン氏は、それこそがアベノミクスと日銀のマイナス金利政策が長期的に実現しようとしていることだと指摘する。

 3月のFOMC会合の後、フェルドンマン氏はブルームバーグ・ニュースに「デフレに陥った際にやらなければいけないこととやってはいけないことが何であるかについて、世界は日本から多くのことを学べる」と語っている。ブルームバーグ・ニュースでのフェルドマン氏の発言をさらに引用しておく。

 「アベノミクスは1つのデフレ対応策だ。デフレに金融政策、財政政策、成長政策を三位一体的に動員して対処するのがアベノミクスだ。G20(主要20カ国・地域)が日本で起きたことから学ぶべきことは多い。日本が自らに起きたことから学ぶべきことも多い。重要なことは、国民がやらなければいけないことを示すテンプレート(雛形)がアベノミクスだということだ」