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J-MONEY2016年春号 注目記事

海外レポート

EU離脱でも世界的危機は発生せず

クリス・ライト(Chris Wright)
ロンドンを拠点に活動するフリーの金融ジャーナリスト。ユーロマネーやインスティテューショナル・インベスター、フィナンシャル・タイムズ、オーストラリアン・フィナンシャル・レビューなどで執筆。アジアマネーやオーストラリアン・フィナンシャル・レビューでは投資コーナー編集長を務めた。

EU離脱なら、短期的には投資資金は脱英国の恐れ

 英国では2016年6月23日、EU(欧州連合)からの離脱(Brexit =Britishexit)の是非を問う国民投票が行われる。デイヴィット・キャメロン首相を含めた多くが予想していたより、さらに僅差の投票結果となりそうだ。諸外国もまた、脱EUがおよぼす影響を探るのに懸命だ。影響を懸念する1人であるバラク・オバマ米大統領は英国にEU残留を強く促している。

 日本にとって英国のEU離脱は何を意味するのだろうか。短期的には、英国がもはや安全な投資先ではなくなり、世界の投資資金は日本を含めた他の安全な地へ向かうことが考えられる。ハートウッド・インベストメント・マネージメントでインベストメント・ディレクターを務めるマイケル・ステーンズ氏が解説する。

 「EU離脱による影響は不透明だが、短期的に英国の資産全体にネガティブな影響をおよぼすだろう。財政赤字と貿易赤字を抱える英国が資本逃避に直面すれば、英ポンド安は避けられない」

 ポンド安によって、日本円の価値が米ドルやユーロといった他通貨に対して自動的に上昇するわけではない。しかし、日本が必ずしも円高を望んでいるわけではないが、おそらく円安ではなく円高の要因となる。

特恵貿易協定が失われると英国製品の競争力は低下

 EU離脱がポンドに影響をもたらすことは投資家の間では共通認識となっている。たとえば、インベステック・ウエルス・アンド・インベストメントのインベストメント・ストラテジー責任者、ジョン・ウィン‐エヴァンズ氏は、「英国経済と国際貿易に影響をおよぼす可能性のあるEU離脱は、ポンドにとって明らかにマイナスだ」とコメントする。

 脱EUを求める英国内の動きはすでにポンド相場に影響している。NNインベストメント・パートナーズの債券投資マネージャー、ジェイコ・ロウ氏は、ポンドには期待外れの国内経済データやイングランド銀行のハト派的金融政策などさまざまな下振れ要因があり、「離脱リスクのポンド安への実際の影響を見極めることは難しい」と断ったうえで、「離脱の動きがポンドを4~ 7%押し下げているのは確かなようだ」と述べた。

 2016年2月下旬のポンド安の原因の大半は、ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏がEU離脱支持を正式に表明したことによるものだが、ポンドにはさらに厳しい向かい風にさらされる可能性が残っている。ロウ氏は「離脱リスクそのものはある程度織り込み済みだが、脱EUが現実のものとなれば、大きな衝撃となって英国およびユーロ圏に深刻な波紋を広げるだろう」と指摘する。

 英国のGDP(国内総生産)のうち、対EU輸出は12%を占める。EU離脱は、EU域内における英国製品の競争力を担保してきた特恵貿易協定が失われることを意味する。つまり、通貨のみならず、英国経済そのものが大きな打撃を受ける恐れがある。

 NNインベストメント・パートナーズは、EU離脱が「英国の経済成長率に甚大な影響を与え、直接投資の大幅な減少をもたらす。景気はリセッションの瀬戸際まで後退し、イングランド銀行は金融緩和を迫られることになるだろう」と警告する。

主な日本企業は、引き続き英国に留まる方向

 とはいうものの、政権交代とは違い、国民投票の場合、投票日翌日の6月24日以降もキャメロン政権は存続する。ウィン‐エヴァンズ氏はいう。

 「英国債相場にとっての主なプラス要因は、いかなる結果になろうとも政府自体は変わらないことだ。つまり、安全な政権運営と均衡財政へのコミットメントに定評のある政府が引き続き英国を引っ張っていく」

 これは日本にとって重要なことだ。EU離脱が、日本経済と資産を脅かす恐れのある世界市場を巻き込むシステミックショックを引き起こすとは必ずしも限らないことを意味しているからだ。EU離脱は英国自体に確実に大きな影響をおよぼす。とりわけ欧州市場への参入権を喪失する可能性がある。

 しかし、世界市場にまで影響するとは限らない。ウィン‐エヴァンズ氏は「もっとも大きな損失を被る可能性があるのは金融界」と予想する。

 もちろん、欧州市場には影響があるだろう。そしてそれは日本にも、短期的、長期的な影響をもたらすことが考えられる。短期的には、日本の安定性を求めて国外から流入する投資が増える。長期的には、仮に欧州経済が英国の離脱による著しい影響を受ければ、日本経済にもマイナスの結果がもたらされるだろう。

 英国内では、EU離脱が現実となった場合、日本企業が英国に留まるか否かをめぐる議論が繰り広げられている。離脱によって欧州諸国との特恵貿易協定が失われれば、日本企業が欧州業務拠点を英国に置く合理的なビジネス要因がなくなってしまうとの懸念がある。

 これまでのところ日本を代表するトヨタ自動車と日立製作所は、EU離脱による英国撤退はないとの考えを示している。日立の中西宏明取締役会長代表執行役は2016年1月にそう明言し、トヨタもまた年初に英国政府に対し同様の説明をしたと見られる。日本企業は英国のEU残留を望んでいるというのが一般的な見方であり、EU離脱が現実となっても英国に留まりそうだ。

経験則では、国民投票の結果は与党に有利

 与党・保守党はEU離脱を望んではいないことを肝に銘じておくべきだろう。保守党が2015年5月の総選挙公約にEU加盟継続の是非を問う国民投票の実施を含めたのは、そうしなければ選挙での敗北が必至な情勢だったからだ。その背景には、強固な反移民政策を掲げる極右派のUKIP(英国独立党)の台頭があった。 

 キャメロン首相は、公約通り国民投票を実施する義務がある、一方で、国民にはEU残留に投票するよう全力を挙げて説得するだろう。過去のケースを見ると、国民投票を実施する与党は望み通りの結果を得られる傾向にあり、そのことはEU離脱の可能性が低いことを示唆する。また、現段階での世論調査は、ほとんどの国民がEU加盟継続に投票することを示唆している。

 それでも、EU離脱が現実となる可能性も否めない。EU離脱の場合でも、日本は英国とこれまでどおり貿易を続けるだろうし、何ら目立った変化はないはずだ。むしろ英日貿易は拡大するだろう。

 脱EU派は、EUを離脱することで厄介な規制がなくなり、日本を含めたアジアの先進経済諸国とのより自由な貿易が可能になると唱えている。その主張によると、EUとアジアの間に存在する本格的なFTA(自由貿易協定)は現在、韓国と締結(2011年7月発効)されたもののみで、EUの官僚機構がそうした協定締結の妨げになっているという。EUを離脱すれば、アジア諸国はより簡単に英国とのFTA締結を実現できるようになるというわけだ。

 日本に限っていえば、英国のEU離脱の最大の問題は、それが低迷の続く世界経済において事態を悪化させ、日本にダメージがあるか否かだ。世界市場は、中国の景気後退、ユーロ圏での継続的な景気低迷と不安定性、新興国資本市場の流動性危機などすでに問題が山積みだ。その世界市場にとって、英国のEU離脱はさらなる不安定材料となりそうだ。

 NNインベストメント・パートナーズのシニア・エコノミスト、ウィレム・フェルハーヘン氏は「EU離脱は英国とEU双方にとってマイナスとなるだろう」と欧州の先行きを懸念する。市場がもっとも恐れていることが現実となれば、英国はリセッション寸前となって、ダメージを阻止するためにイングランド銀行は金融緩和をさらに拡大することになるだろう。またそれは日本を含め、誰も望まない、世界経済へのさらなるショックとなるだろう。