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「谷深ければ山高し」は成り立つ

J-MONEY2014年夏号 注目記事

新金融ゼミナール J-MONEY+一橋大学大学院国際企業戦略研究科

最先端の投資理論
「谷深ければ山高し」は成り立つ

従来のアクティブ運用やパッシブ運用とは異なるリスクやリターンを標榜する「スマートベータ」が機関投資家の注目を集めている。先進国の超低金利が継続するなか、投資家の長期的なリターン獲得に寄与しうる投資戦略として、リスク分散や株価の動きに着目した最新の研究成果を紹介する。

リスクを「最小化」ではなく「等配分」するポートフォリオ

 現在広く行われている投資戦略は、全体のリスクが最小になるように投資比率を決定する「リスク最小型」と呼ばれる戦略です。この戦略は合理的ではあるものの、問題点もあります。常にリスクの最小化を図るためには一定の頻度でリバランスを行う必要があり、その際にかかるコストがリターンを押し下げてしまうのです。

 そこで我々は、従来のリスク最小型とは異なる分散ポートフォリオの研究を進めています。その1つが「リスクパリティ」という考え方です。

 「パリティ」は日本語に直訳すると「等価」。つまり、各資産のリスクを等配分するということです。例えば10資産に投資する場合、各資産のリスクが等しくなるように投資比率を決めます。この方法では、分散投資の度合いが高くなり、リバランス時にリスク最小型ほど投資比率を頻繁に変える必要がないため、取引コストを抑えられます。

 これと同様の考え方で、リスクを等配分するのではなく、ファンドマネージャーがリスクの配分比率を与えるのが「リスクバジェット」です。

 さらに一歩進んだ考え方として、資産全体のリスクではなく、テールリスクと呼ばれる想定外の暴落のリスクをパリティ化する研究も進んでいます。ノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズがテールリスクパリティの考え方を使ってファンドを組成するという話もあり、ポートフォリオ理論としては最先端の研究課題の1つです。

 リスクパリティで扱う変数は、オプション取引のデルタにあたる量です。オプション取引では、各資産の価格変動率であるデルタの合計をゼロにしたり、ある特定の値にすることでポートフォリオを組みますが、リスクパリティやリスクバジェットはこれと同じ考え方に立ちます。

 現実のポートフォリオ運用では、価格変動は正規分布に従わず、ダウンサイドの確率が高くなる傾向があります。各国のアセットクラスは連動しており、特に資産価格が下落するときほど共変動が起きやすい現象が観測されます。正規分布を前提とするような戦略より、下落側に重点を置いたテールリスクパリティの方が、現実に即した投資戦略になりうると考えています。

日本株の比率を20%に上げるとリスクの大部分が株に集中

 政府の公的資金に関する有識者会議は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に対して国内株式の運用比率を20%近くまで高めることを求めました。この20%という配分を、リスクの観点から見るとどうなるか。2013年8月時点のリスク水準をもとに考えてみましょう。モデルを単純化するため、国内債券と国内株式の2資産で見てみます(図表)。

 債券と株が50%ずつの等配分では、ポートフォリオ全体のリスクの9割以上が株に集中します。これをテールリスクパリティ、つまり損失のリスクを債券と株で等配分させると、投資比率は債券が90%以上、株は10%を切る水準となります。テールリスクバジェットの考え方で、リスク配分を債券10%、株90%にすれば、株の比率は15%を超えます。

 つまり、日本株の配分を20%にすると、テールリスクは大きく株に偏ることとなります。昨年8月のような、株のテールリスクが拡大している状況ではなおさらです。

 実際のGPIFのポートフォリオは国内債券と国内株式だけではないので、ここまで極端なリスクの偏りは発生しませんが、それでも株の配分を20%にすれば、テールリスクのかなりの部分を日本株が受け持つことになります。この偏りを、年金を支払う立場である国民が受け入れられるかどうか、より慎重な議論が必要かもしれません。

 また、近年では生命保険などの機関投資家が外債投資を活発化させています。外国債券は、例えば同じユーロ圏でも南欧の債券は信用リスクが高く、国ごとにリスクが異なりますが、こうした国々に投資する場合にもリスクパリティの考え方が応用できます。

 ソブリン債の信用リスクは、リスクヘッジの手段として信用リスクに値段を付けたデリバティブ(金融派生商品)のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)で測ることができます。ソブリン債CDSのプレミアムを分析し、その変動の様子からソブリン債のトータルリスクやテールリスクを計量します。ソブリン債CDSの変動を見ると、ユーロ圏ではイタリア、ポルトガル、スペインといった国のソブリンにテールリスクが集中していることがよくわかります。

東証1部と新興市場では優良株は継続して上がりやすい

 日本株の投資戦略の1つとして「リターンリバーサル」を紹介します。

 現在、東証にはおよそ1800の銘柄が上場されています。その中には値上がりを続ける優良株があれば、逆に値下がりを続ける銘柄もあります。しかし、通常は上がり過ぎた銘柄はどこかのタイミングで売られ、下がり過ぎた銘柄は買われ、全体のリターンがあるレベルに回帰していきます。リターンリバーサルは、このようなマーケットの動きを利用した投資戦略です。

 米国の株式市場では、値上がりしている銘柄を買い、値下がりしている銘柄を売る「モメンタム戦略」が効くといわれます。優良株は継続して上がりやすく、「勝ち馬に乗る」戦略が奏功しやすいのです。もちろん値上がりの継続には限度があり、たびたび価格のクラッシュが起きます。直近では2014年4月にナスダック市場でミニ・クラッシュが起きました。

 これに対し、日本では株価の調整が起きやすく、モメンタム戦略よりリターンリバーサルの方が効くと、経験則として以前からいわれています。

 そこで、実際にリターンリバーサルがどのくらいの効果を生んだか、過去の株価をもとに調べてみました。

 まず、東証1部、東証2部、マザーズ、ジャスダックの市場ごとに、各銘柄の期待リターンを計算します。市場の極値同士の依存構造を見るために、期待リターンが最も低い10-50銘柄程度を買い、最も高い銘柄を同じだけ売り、1-2週間後に反対売買を行う。

 これを毎週繰り返します。結果は、驚くべきパフォーマンスを叩き出しました。「失われた20年」にこの戦略を実施していれば、理論上は資産価値が20年で10倍近くに増えることもあり得ました。

 リターンリバーサルのパフォーマンスは、市場ごとに特徴が分かれました。最も成績が良かったのは東証2部で、値上がり、値下がりの両方で高い収益が得られました。一方、東証1部では売られ過ぎた銘柄は上がりやすいのですが、買われている銘柄は短期間では価格調整がされがたく、さらに買われる時期も散見されます。「谷深ければ山高し」は成り立っても、山が高ければ、谷が深くなるということは短期間の取引では観察されません。新興市場も東証1部と同様に、上は(弱い)モメンタム戦略、下はリターンリバーサルが効きやすい傾向が表れました。

 さらに付け加えると、リーマン・ショックのようなマーケットに大変動が発生したときの方がリターンリバーサルの効果が顕著でした。外的要因により価格がフェアプライスからずれているときほど利益が出やすくなります。

 近年、年金を中心に機関投資家からのスマートベータの需要が高まっています。伝統的な投資戦略とは異なるアプローチでリスク・リターンの最適化を図る新しい戦略は、今後さらに注目を高めるでしょう。