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市場の影響を受けにくい「プライベート資産」

J-MONEY2014年春号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

マーケット規模は世界で300兆円強
市場の影響を受けにくい「プライベート資産」

PE(プライベートエクイティ)をはじめとした「プライベート資産」の存在感が国内外で高まっている。プライベート資産はアセットアロケーションの新基軸となり得るのか。その可能性を探る。(工藤晋也)

米国機関投資家は5-10%保有
情報面や低流動性に改善の兆し

 プライベート資産とは、上場などせずに特定の投資家向けに提供している非公開のアセットクラスの総称で、株式市場などに上場して自由に売買できる“パブリック資産” の対極に位置する。代表格であるPEのほかにプライベートデットや私募REITなどのアセットクラスが含まれる。

 プライベートな資産のために大まかな数字になるが、その市場規模は「世界全体で300兆円強」とアーク東短オルタナティブの取締役、鈴木英典氏は見積もる。米国の年金基金の間ではすでに主流のアセットクラスになっており、「ポートフォリオの5-10%程度を占める」(鈴木氏)ほどだ。

 しかし、国内に目を転じるとまだ発展途上といったところ。「運用資産残高も3兆円程度と推察される」と鈴木氏は明かす。欧米に比べて広がりが限定的なのは次の理由が挙げられる。

 その1つは「情報の少なさ」だ。非公開のアセットクラスという性質上、そもそも情報はオープンにはされていない。それだけでなく、「これまでは運用サイドが積極的に情報開示しなくても、投資資金を十分に確保することができた」(アーク東短オルタナティブの投資顧問部長、飯島信行氏)という面もあった。

 だが、情報の閉鎖性は徐々に改められている。きっかけになったのは「リーマン・ショック」と「ボルカー・ルール」だ。リーマン・ショックが引き起こした市場の不透明感によって流動性の低いプライベート資産などが忌避されたことに加えて、ボルカー・ルールの導入でリスクの高い資産に投資しにくくなり、「資金集めが難しくなった運用サイドが適切な情報開示を積極的に行うようになった」と飯島氏は話す。

 もう1つの理由は「流動性の低さ」だ。プライベート資産にはパブリック資産のように自由に取引できる巨大な市場がなく、売り買いに制約がかかっている。しかし、流動性の面も少しずつ改善の兆しが見え始めている。

 アーク東短オルタナティブ取締役の古屋武人氏は「欧米には資産の買い手と売り手が集まるセカンダリーマーケットが充実しており、その規模も年々拡大している」と語る。さらに同社はプライベートエクイティなどの仲介業務や、国内機関投資家に買い手を紹介するセカンダリー業務を手がけており、「これらの業務を通じてプライベート資産の取引がしやすい環境整備を図っていく」と古屋氏は意欲を見せる。

超低金利や会計制度の変更で見直しの機運高まる

 プライベート資産には外部要因という追い風も吹いている。その1つが国内年金基金に限られるが「会計制度の変更」だ。退職給付会計の導入により時価換算が義務付けられ、さらにその時価が母体企業の財務諸表に即時認識されることになった。制度変更に伴って国内年金基金は上場株式のような価格のブレが大きいアセットクラスの投資を控えるようになり、代わってマーケット動向にあまり左右されないプライベート資産が注目されるようになった。

 もう1つの要因は「歴史的な低金利」だ。超低金利によって債券の投資魅力が薄まっているものの、ボラティリティの高い株式に振り向けるのは難しい。債券の代わりとなる代替投資先も見当たらないことから、「上場していないためにマーケットの影響を過度に受けないプライベート資産が見直されている」(鈴木氏)という。

 個別のプライベート資産には、どのような投資魅力があるのか。PEから順に見ていきたい。

プライベートエクイティ

十数%保有する米年金基金も
国内公的年金に投資拡大の動き

 PEは主に非公開株式などを投資対象にするアセットクラスで、企業の創業期に投資する「ベンチャーキャピタル」、成熟企業に投資する「バイアウト投資」、経営不振企業などに投資する「ディストレスト投資」といったタイプがある。

 上場株式より高い利回りが得られる可能性があり、他のプライベート資産と同様にマーケット動向の影響をあまり受けないのが特徴だ。マーケットの投資家心理とシンクロしないため、「文字通りのアルファが得られることもある」と東京海上キャピタルを率いる取締役社長、マネージング・パートナーの深沢英昭氏は指摘する。

 米国では25年ほど前からPEが広まっており、「カリフォルニア州公務員退職年金基金(カルパース)をはじめ、十数%保有している機関投資家も珍しくない」と東京海上キャピタル取締役、ジェネラル・パートナーの重村英輔氏は明かす。

 日本でもPE拡大の芽は出始めており、公的年金の運用見直しなどを検討する政府の有識者会議が、国内債券への偏りを是正するとともにPEなどのリスク資産への投資拡大を提言している。

 みずほキャピタルパートナーズのマネージング・ダイレクター兼、エグゼクティブ インベストメント オフィサーの佐藤正秀氏は「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的年金がPE投資を加速させる可能性はある」と期待する。

 重村氏も「日本でPEが産声を上げて十数年。リーマン前に起きた『PEブーム』を第一波とするならば、いまは第二の波が押し寄せつつある」と見る。

 1998年に1号ファンドを設立し、現在までに4号のファンドを立ち上げた東京海上キャピタル。「国内のPE運用会社で4号ファンドまで立ち上げたところは数少ない。当社はこれまで15社に投資し、エグジット(投資資金回収)したのは12件。いずれも投資簿価以上のエグジットを実現している」と深沢氏は胸を張る。

 PEには対象事業会社のニーズより、短期投資収益を優先する「ハゲタカ」のようなネガティブイメージがあったし、現在でもある。しかし、「我々は中長期的な企業成長を重視し、最終的にIPO(新規株式公開)という形で企業の自立を支援する。これまでに半数以上の投資先企業のIPOを実現しており、投資対象企業の経営陣からの信頼は厚い。この実績および信頼がみずほキャピタルパートナーズのブランド価値の源泉にもなっている」と佐藤氏。

 実績に裏打ちされた信頼をバックボーンに優良な投資案件を積み上げ、PEとしては異例の“十戦十勝” を目指すみずほキャピタルパートナーズ。「実際の勝率(元本以上を回収する案件の割合)は9割程度ですが、さらに上を目指す」と佐藤氏は力を込める。

プライベートデット

インカムゲインは年平均8-12%
非流動性プレミアムを上乗せ

 プライベートデットとは企業の資金調達ニーズに対応するための債務や証券で、第一抵当権付ローンや第二抵当権付ローン、メザニン債などがある。

 その魅力はインカムゲインで、年平均8-12%の水準を狙う。またハイ・イールド債券やバンクローンと比べて高い非流動性プレミアムが上乗せされる。例えばハイ・イールド債券のプレミアムは6%程度だが、プライベートデットは主に9-14%のプレミアムが加算される。

 「当社グループの『プライベートデット戦略』は一部株式への投資を通じて追加的なリターンの積み上げを図り、平均10-15%の利回りを目指している」と語るのは、ニューバーガー・バーマン日本法人の取締役 投資運用部長の幾嶋崇氏だ。

 ハイ・イールド債券などと異なって市況の影響を受けにくく、一般的に金利リスクや価格変動リスクにさらされにくいのがプライベートデットの特徴。その一方で流動性が低く、商品設計上もそれなりの投資期間を要する。「通常のプライベートデットファンドで10年、当社は比較的短期で8年の設計だ」と幾嶋氏はいう。

 ただし、国内機関投資家のインカムニーズは根強く、安定的に年平均8-12%のインカムが期待できるプライベートデットの引き合いは徐々に強まってきている。

 「プライベート系の資産への投資はいかにディールを発掘するかがポイント。当社のPE運用部門は30年以上の歴史を持ち、これまで300社以上のバイアウトファンドに投資してきた実績がある。投資先であるバイアウトファンドなどからディールの話が優先的に持ち込まれるケースが多い」と幾嶋氏。発掘件数は年間200件相当に達し、そのなかから最終的に5、6件程度にまで絞り込んでいくという。

 200名の陣容を擁する投資チームが運用を担当するという体制も業界屈指だ。「デューデリジェンス(資産精査)のスキルも強み。投資先企業およびその企業の株主であるバイアウトファンドのデューデリジェンスを行って独自にデータベース化しており、その情報を活用することが可能となっている。これまでに同様の投資案件でのデフォルトはなく、デューデリジェンスのプロセスが機能していると考えている」(幾嶋氏)

私募REIT

市場規模は2012年の倍に
地銀や信金の引き合い増える

 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの不動産運用部長、貝塚浩康氏が「2013年末で約5000億円と、この1年間で市場規模は倍になった」と話すように新たな不動産金融商品として有望視されているのが私募REITだ。

 理由は上場REITや私募不動産ファンドが持つマイナス面を改良したことが大きい。例えば上場REITは不動産鑑定評価額以外に株式市場の影響も受けるという欠点がある。私募不動産ファンドは投資期間が定めており、市況が悪いときに売らなくてはならないケースもある。レバレッジも高く、市況によっては損失が膨らむ恐れもある。

 これらのデメリットをなくしたのが私募REITだ。「株式のリスクは取らず、不動産のリスクだけで安定的なインカムゲインが享受できる。投資期間も無期限でレバレッジも比較的低いことから、昨今は地銀や信金からの引き合いも増えている」と貝塚氏は話す。

 私募REITの目標利回りは年平均4-5%程度。「当社はそれより数十bp上乗せを目指しているのが強み。日本の富と経済の中心地であり、賃料も地方都市より相対的に高い東京圏のオフィスビルに特化しているのも特徴だ。スポンサーから物件供給を受けることなくすべて外部の事業法人、国内外のファンドなどから物件を取得し、利回りの向上を最優先に運用している」(貝塚氏)

 上場REITのように自由に売買できないのが悩ましいが、現在およそ5000億円の市場規模が拡大し、投資家層の厚みも増してくれば「セカンダリー市場が形成され、エグジットも容易になるだろう」と貝塚氏は期待を寄せる。

 その局面での最善の手である“定跡”は時代とともに変わっていく。かつてのヘッジファンドのようにオルタナティブ資産の主役としてプライベート資産を保有するのが定跡になる可能性もある。ポートフォリオ戦略の定跡を求めて機関投資家の試行錯誤はこれからも続いていく。