Advertisementアクサ・インベストメント・マネージャーズ
TOP > 注目記事 > 不安輸出国「中国」にどう向き合うべきか

J-MONEY2015年秋号 注目記事

海外レポート

不安輸出国「中国」にどう向き合うべきか

アレックス・フルー・マクミラン(Alex Frew McMillan)
香港を拠点に20年にわたりジャーナリスト活動を展開。ニューヨーク・タイムズやインターナショナル・ヘラルド・トリビューン、フィナンシャル・タイムズ、サウス・チャイナ・モーニング・ポストのほか、アジアン・インベスターなどの雑誌媒体でも執筆。

中国依存が大きい日本経済の現実

 中国は8月中旬に突然、人民元を3日間で4.6%切り下げた。2005年に管理フロート制に移行して以来、切り上げ一辺倒だった人民元が切り下げられる日が来ることを予想した市場関係者はいなかった。切り下げた理由は、中国の輸出増加より、人民元為替レートの自由化に向けた措置だというのが中国政策当局の説明だった。

 しかし、人民元切り下げは株式市場に大きなショックを与えた。世界同時株安が起こり、MSCIワールド・インデックスはわずか数日で9%、日経平均株価は14%急落した。世界同時株安は、中国が世界2位の経済大国だという事実を改めて世界に示す結果となった。

 中国は、輸出大国であると同時に輸入大国でもある。2014年の輸出額は2兆3420億ドルで世界1位(2位米国)、輸入額は1兆9590億ドルで2位(1位米国)だった。言い換えれば、世界経済は対中貿易にこれほど大きく依存しており、中国経済の動向が関係国に大きな影響をもたらす構造ができているわけだ。

 日本経済も当然、中国と密接な関係にある。そこで、今回の人民元引き下げがもたらした市場の混乱を振り返りながら、将来の中国発のショックに日本がどこまでさらされているかを中心に探ってみる。同時に、世界金融危機後の影響から脱していない中国以外の諸国・地域で起こり得るショックと日本との関連にも焦点をあてる。

 今回の混乱を引き起こした中国は、「不安輸出国」となった。

 米格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P) のアジア太平洋担当チーフエコノミスト、ポール・グルエンウォルド氏が9月9日に発表したリポート(共同執筆者はビンセント・コンティ氏)には、中国市場の安定性への懸念によってアジア地域経済の格付け見通しの引き下げを余儀なくされたと明記された。ただ、混乱の今後への懸念については、「針を動かす」程度にとどまると分析している。

中国の経済不安で寒気を感じる日本

 中国経済の先行きへの不安で日本は寒気を感じている。S&Pはアジア貿易の見通しの悪化を受けて、日本のGDP(国内総生産)成長率見通しを2015年については0.9%から0.6%に下方修正。2016年の見通しは1.3%に据え置かれた。

 S&Pは9月16日、日本国債の格付けを「AAマイナス」から「Aプラス」に下げた。ムーディーズ、フィッチはそれより先に日本の格付けを同じく1段階引き下げていた。

 格下げの理由としてS&Pは、アベノミクスが安倍政権の当初の公約に反して、日本の弱々しい景気と悪化が続く財政状態を今後2~ 3年で好転させる可能性が低いことを挙げた。2011年から2014年にかけて、日本の国民1人当たりドル建て所得は急激な円安を受けて4万7000ドルから3万6000ドルに激減した。S&Pは、2015年度がさらに3万3100ドルまで下がると予測している。

中国危機の影響も増税にはおよばない

 貿易の対中依存率が高い「アジアの虎」と呼ばれる香港をはじめ、シンガポールや韓国、台湾などのアジア諸国に比べると、日本の場合は中国の景気後退がもたらす影響に耐性があることは間違いない。

 日本経済にとって、中国危機よりはるかに大きな影響をもたらすことが確実なのは、8%から10%への引き上げが予定されている消費税増税だ。グルエンウォルド氏は、増税が予定通り2017年4月から実施されれば、ビル・マーレイが演じる主人公が退屈な日を際限なく送り続ける、1993年の米映画「Groundhog Day」(邦題「恋はデジャ・ブ」)の再来になると警告する。

 原油価格の下落など海外要因は、デフレ脱却を試みる安倍政権には逆風となっている。ソシエテジェネラルのチーフエコノミストである会田卓司氏は、日本の実態経済は輸出、生産、GDP成長率のいずれも市場の期待を下回っており、その傾向が続けば、「物価上昇率2%」の公約の達成に疑問が呈されることになると指摘する。

外的ショックによる景気減速のリスク

 会田氏は、日本の場合、輸出依存度が15%と相対的に低いため海外を震源とするショックが直撃するリスクは限定的だと語った。しかし、8月の世界同時株安のような出来事は日本への心理的圧力となり、それが消費者マインドの冷え込み、支出減少、企業マインドの悪化という悪循環を招けば、深刻な影響は避けられない。

 「外的ショックは、国内の景気センチメントを低下させることで日本の景気に間接的な影響をおよぼす。日本の消費者が外的ショックによって国内景気が減速すると判断すれば、それは日本のさらなる景気減速の引き金となり得る」(会田氏)

 中国などの外的要因の悪化が、実際に日本の消費者マインドに悪影響を与えているというのが会田氏の見方だ。9月に同氏が発表したレポートは「デフレからの完全な脱却に非常に近づいてきたが、目先の状況は厳しい」と、日本銀行による金融の追加緩和を促す内容となっている。会田氏は、安倍政権は2017年夏の参院選までにデフレ脱却を宣言したいと見ている。

 日本の中国への輸出依存度は17%と高い。そのことは、中国の景気動向の影響を受ける日本企業がそれだけ多いことを意味する。しかし、CLSAの日本株ストラテジストであるニコラス・スミス氏によると、そうした見方は「真実」とかけ離れているという。

 日本の中国向け輸出品の大半は部品で、それらは中国で組み立てられて最終製品となり、海外諸国に輸出されるからだ。「(日本企業にとって)重要なことは、中国自身の部品需要ではなく、米国と西欧の消費動向だ」とスミス氏は語った。

 中国発の混乱は、世界各国と同様に日本市場も揺さぶった。ただし、日本市場が中国危機の影響を直接受けたわけではない。

 スミス氏によると、日本市場は流動性が高いため、外国投資家にとって保有資産の売却が容易だという事情がある。今回の場合、海外の投資運用会社のなかで資産を現金化する必要に迫られたところが、日本の資産、とくにここのところ値上がりしていた日本株を売却したということだ。

 この夏の出来事について、スミス氏はこう振り返る。「投資家には地獄だった。市場が売り一色となったため、投資家は安全資産を求めて動いた。何も信じられない状況が続くなかでは、どのような優れたアイデアも役に立たない」

 日本の金融機関は株式アナリストの情報に依存し過ぎるという見解を持つスミス氏は、冗談まじりにこう述べた。「巨大かつ保守的な機関投資家である日本の銀行は、20年も防空壕に身を潜めたままだ。彼らを無理やりにでも(株式市場に)引っ張り出すべき。ようやくその兆しが見え始めてきた」

 スミス氏は9月の顧客向けレポートで「(日本)国内に注目。投資対象は国内中心のビジネスを展開する日本銘柄」と強調している。

労働市場改革は些細なニッチ分野で前進

 ところで、アベノミクスの3本目の矢である経済構造改革について、英経済紙フィナンシャル・タイムズが「成績表」を掲載した。

 安倍首相が提唱する「女性が輝く社会づくり」の一環として、女性の社会進出比率が過去最高の65%まで上昇したことは「Bプラス」と評価された。従業員300人超の企業に女性管理職の割合の数値目標を設定するように要請して、男女平等を促そうとする姿勢も好評だ。
 企業ガバナンス改革には最高点「A」が与えられた。そのなかには、ROE(株主資本利益率)重視の経営、外部取締役選任の促進が含まれている。しかし、移民受け入れなど外国との関係に絡む分野における安倍政権の政策はほぼ不合格に近い「Cマイナス」の評価だった。

 フィナンシャル・タイムズには、労働市場改革で進展があったのはIT(情報技術)関連とスキーインストラクター資格など「些細なニッチ」分野に限られると書かれた。労働市場改革全体に関しては、正規・非正規労働者の格差問題への対応を含めて、「氷のように冷たい」変化の遅さから、「D」評価が下された。

 結論を言えば、安倍晋三首相の日本経済を世界経済に一層融合させるための努力は失敗に終わろうとしている。別な見方をすれば、中国やその他の諸国を発生源とする新たなサプライズに直面しても、世界経済との一体化が遅れている分だけ、結果的に日本経済にとって悪いサプライズとなるリスクが軽減されることも考えられる。しかし、サプライズは常に悪いものとは限らない。

 かつての安倍政権時代に海外に対して門戸をもっと広く開けておくべきだった――。いつか世界経済が堅実な成長過程に回帰し、日本が素晴らしいサプライズをもたらす外国人を多く迎え入れる必要に迫られるようになって、日本人は初めてそう思うかもしれない。