Advertisementアクサ・インベストメント・マネージャーズ
TOP > 注目記事 > 米国と中国のはざまに埋もれる日本

J-MONEY2015年秋号 注目記事

海外レポート

米国と中国のはざまに埋もれる日本

M・コーリー・ゴールドマン(M. Corey Goldman)
カナダを拠点に北米経済全般・資本市場をカバーするフリーの金融ジャーナリスト。以前は、ブルームバーグ・ニューズ、CNN、トロント・スター、カナダ・フィナンシャル・ポストなどで取材・編集を担当。社会奉仕活動ではHelp For Children/Hedge Funds Care(ニューヨーク)役員を兼任。

市場の関心は米利上げと景気減速の中国に集中

 北米の投資家と市場ウォッチャーは総じて数カ月前から日本にほとんど関心を寄せていない。市場の全ての関心は現在、中国の景気減速と米国の利上げの動きに向いており、安倍政権のデフレ脱却への闘いに対する彼らの「レーダー」の感度が落ちているのだ。

 今回に限れば、相対的に日本への関心が低下しているだけなので、気にする必要はない。なぜなら日本経済は、20年以上も政府の景気てこ入れが空回りを続けた状態から、アベノミクスの「3本の矢」によって景気が上向きに転じてきているからだ。

 「第1の矢」によって為替レートは第2次安倍政権の発足以来、約30%の円安となり、日本の輸出が増大してきた。この間、日本企業の財務基盤は強化され、経営効率と競争力の向上のための改革が進んだ。

 ただし、金融メディアや一部のストラテジストの間では、日本に再び関心を向ける動きが見られる。多くのコメンテーターは、中国の景気減速と年内とも予想される米国の金融政策の正常化で、景気回復を確実なものとしたい日本政府の経済の舵とりがより難しいものになると指摘する。

 そのことは日本の経済指標からもうかがえる。2015年の実質GDP(国内総生産)成長率は第1四半期(1~3月)のプラス成長から第2四半期は一転してマイナス成長に転じた(図表1)。8月の全国消費者物価は前年比マイナス0.1%となり、2年4カ月ぶりのマイナスとなった(図表2)。日本銀行が2016年度前半までに達成を目指すインフレ目標の2%には遠くおよんでいない。

市場の懐疑論を増幅した安倍首相の「新3本の矢」

安倍首相は9月24日の記者会見で、アベノミクスの「第2ステージ」入りを宣言し、「新3本の矢」を発表した。しかし、市場はアベノミクスに対してより懐疑的になってしまった。

 英経済誌エコノミストは9月26日付で、「ヘッドライン(総合)物価指数ベースでデフレに逆戻りしたことで、国民や企業のインフレ期待に影響をおよぶ恐れがある。日本銀行が今後新しい経済見通しを発表する際には、金融の追加緩和への圧力がさらに強まるだろう」とコメントした。

 輸出に関してもネガティブな景気動向を示唆する数字が発表されている。9月の日経/マークイット製造業PMI(購買担当者景気指数)速報値によると、輸出受注(季節調整値)は8月の改定値の51.7から50.9に低下し、過去3年で最大の下げ幅となった。

 アベノミクスのどの矢が安倍首相のうたい文句どおりの効果を持続的に上げるかは不透明だが、FRB(米連邦準備理事会)の姿勢がアベノミクスの先行きをより難しいものにしていることは明らかだ。

 FRBが年内に利上げを実施すると予想されているが、FRBのこれまでの利上げの先送り、つまりゼロ金利政策の維持が、日本国内の日銀への追加緩和圧力を強めてきた。しかし、インフレ目標達成のためにすでに年間80兆円の国債買い入れを実施している日銀にとって追加緩和は難題だ。

 予想されるFRBの年内の利上げは1回限りになる可能性が高いが、それでも安倍政権と日本経済にとっては「悪いニュース」になる。

 FOMC(米連邦公開市場委員会)委員は、2017年およびそれ以降の米政策金利フェデラルファンド(FF)レートの予想値を引き下げている。米国債利回りはイールドカーブを反映して下がり、超低利回りの日本国債とのスプレッドに縮小が見られる。それは為替市場では円高圧力となる。円高は日銀の政策目標ではない。

中国・新興国の景気低迷で輸出減か

日本の輸出先として大きな比重を占める中国およびその他の新興国市場の景気減速が続けば、日本の輸出が減少し、GDP(国内総生産)のなかの外需に影響が出る。そのため、海外コメンテーターの日本の成長見通しには暗いものが目立つ。同様に、アベノミクスが経済成長、インフレ目標の達成、生産性の向上につながるかについても、それを懸念する声が上がっている。

 さらに、円安が輸出増と物価上昇をもたらしてきたことは確かだが、最近の中国人民元の切り下げ、それによって予想される中国産品の輸出価格の低下が日本の輸出企業をさらに苦しい状況に追い込む恐れがある。世界市場の大きな変化へのアベノミクスの適応力が問われているわけだ。

 日本国内からも景気の現状について苛立ちの声が聞こえる。それも日銀の黒田総裁からだ。9月に大阪市で開かれた地元経済界会合の講演で、2年間におよぶ異次元の金融緩和によって企業収益が改善し、企業の内部留保は過去最高水準にあるにもかかわらず、それが賃上げという形で従業員に還元されていないことを指摘した。

 講演後の記者会見でも、黒田総裁は、「実際には企業収益は大きく改善し、雇用情勢も完全雇用に近い状態になっているにもかかわらず、必ずしもそれを反映したように賃金の上昇が起こっていない」と改めて語った。講演のなかでは、「好調な収益なのに設備投資と賃金の上昇が起こっていない」と述べている。

 日本市場に関してメディアが流すネガティブな情報が多いにもかかわらず、投資家はいい意味で独自の判断で行動をしているように見える。

 米バンクオブアメリカ・メリルリンチの国際資本市場への資金の流れに関する調査によると、9月第3週の日本株への投資額は51億ドルと、2014年4月以来の最大規模に達した。なお、海外からの日本株投資はそれまでの30週のうち28週が買い越しだった。

日本は潜在成長力を引き出せるという声も

 安倍政権のデフレ脱却を含む経済政策を詳しく分析している著名な学者やストラテジストのなかには、中国の通貨切り下げとそれがもたらした市場の混乱に関係なく、日本はその潜在成長力を引き出すことに成功すると確信する向きが少なからずいる。

 シカゴを拠点に世界のマクロ経済と金融市場をカバーするコックス・アドバイザーズLLCのドン・コックス会長もその一人で、次のように語る。

 「日本は、世界の地平線上でたまらないような輝きを放ちながら、新たなライジング・サン(日出ずる国)として登場するタイミングが来るのを待ち続けている」

 カリフォルニアに本拠を置くグローバル資産運用大手フランクリン・テンプルトン・インベストメンツのCIO(最高投資責任者)のマイケル・ハッセンスタブ氏の見方はこうだ。

 「実績から判断すると、アベノミクスのお陰で日本はデフレサイクルから抜け出し、名目GDPの縮小にも歯止めをかけたように見える。そのことは正当に評価されるべきだ。(安倍首相のような)非常に重要な前向きの政策を思いつく政策当局者は日本には長年存在しなかった」

 中国情勢とFRBの現在と今後の政策決定が短期的には日本にとって引き続き向かい風になることは間違いなさそうだ。しかし、一部のストラテジストは、原油と商品(コモディティ)の価格下落の日本経済へのプラス効果に加えて、アベノミクスの新しい矢が実際に功を奏すれば、日本は経済と金融市場の持続的回復を実現できると予想する。

 ちなみに、アベノミクスの新しい3本柱は「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」である。企業には競争力と生産性向上を促し、国民には安心できる社会保障を約束することで貯金より消費を増やしてもらいたいというのが狙いだ。

 モントリオールに本社を置くグローバル投資調査会社BCAリサーチのマネージングエディター、ピーター・ベレジン氏は、最新の四半期市場予測レポートのなかでこう書いている。

 「不動産価格の下落、企業のデレバレッジなど、日本のデフレを長期化させ、経済成長の足を引っ張ってきた要因の多くはおおむね消滅している事実を見落とすべきではない。アベノミクスに関していえば、失敗してはおらず、機能しているように見える。すべてを考慮すると、日本経済の先行きについては楽観的に見ており、長期的にはほとんどの専門家が予想しているよりずっと順調に推移していくと考えている」