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急落の影響を極力抑える運用戦略へ

J-MONEY2012年夏号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

市場・制度の環境変化で変わる資産配分
急落の影響を極力抑える運用戦略へ

2012年の株式市場は、欧州債務危機の後退や米国景気の持ち直しなどを背景に、明るい兆しが見え始めたかに見えた。ところが、欧州危機の再燃や米国経済の悪化、新興国の景気減速によって株式市場は一転して下降トレンドへ。債券市場も主要国の国債利回りが歴史的な低空飛行を続けるなど、投資判断の難しい状況が続く。年金基金をはじめ機関投資家から資金を預かり運用する運用機関、そして企業年金基金から、現状の運用環境を踏まえた機関投資家のポートフォリオ戦略をうかがった。(工藤晋也)

Part 1 市場と制度の環境変化 動態的なアセットアロケーション

多様性を増す投資対象
新しい戦略を採用する動き

 「株式部分では国内株式を中心に先進国株式への配分を減らし、債券部分では主に国債の比率を縮小する。その一方で株式や債券といった伝統的資産とは異なる新しいアセットクラスや投資手法のオルタナティブ、生命保険会社の一般勘定への配分が高まっている」──JPモルガン・アセット・マネジメントがこのほど実施した年金運用動向調査を通じて明らかになった国内年金基金の資産配分の現状だ。

 基本ポートフォリオの政策アセットミックスベースでは、国内株式の比率は2009年3月末時点で22.4%だったが、3年後の2012年3月末には15.1%に減少した。対してオルタナティブとヘッジ機能付きの外国債券、生命保険の一般勘定は比率を伸ばしている。

 とくにオルタナティブと生命保険は、2009年3月末時点でそれぞれ6.3%と6.0%だった。それが2012年3月末には8.8%と9.6%に拡大している。国内債券は政策アセットミックスベースで、2009年3月末の35.4%から2012年3月末には36.3%と0.9ポイント増えているものの、実績配分ベースに換算すると2.7ポイント減っている。

 資産配分が変わった背景を「市場と制度面の環境変化にある」と見ているのは、JPモルガン・アセット・マネジメント投資戦略ソリューション室長の鈴木英典氏だ。市場面では、株式が国内株式を中心に値上がりが望めそうにない状況でありながら、ボラティリティは激しさを増している。債券はスペインやイタリアなどの国債を除き、先進国債券の利回りはきわめて低く、魅力が薄まっている状態だ。

 制度面では、国際会計基準(IFRS)との差異を少なくするため、年金基金の積み立て不足を貸借対照表に全額計上しなければならなくなった。母体財務に与える影響を考えると、年金基金にはこれまで以上に損失を一定範囲内に抑える運用が求められている。

 環境変化への対応策として国内の年金基金では、成長が期待できる新興国株式への投資比率を増やしつつ、株式の比率を全体的に減らし、株式リスクの抑制を図っている。

 もう一つの対応策は分散投資だ。かつては国内外の株式と債券を組み合わせるのがポートフォリオ戦略の基本だった。これらの伝統的資産はいずれも期待通りに機能していない。「しかし、金融市場の発展によって新しい投資対象があらわれた。債券であれば新興国債券やハイイールド債券、バンクローン、株式であれば新興国株式、オルタナティブならプライベートエクイティや実物不動産、インフラ、コモディティなど、投資対象は多様性を増している」と鈴木氏は解説する。

 外貨建て資産を減らしたり、為替ヘッジ比率の引き上げによる「為替リスクの削減」のほか、運用機関の能力によって得られる「アルファ」を確保するため、アクティブ運用を強化して環境変化に対応する動きもある。

 2008年のリーマン・ショック前までは、ほとんど見られなかった運用戦略を採用する動きも目立ってきた(図表1)。全体的にはリスク管理を重視した運用戦略を採用する傾向が強く、「ホームカントリーバイアスの修正」を採用する割合は、2011年3月末から2012年3月末にかけて大幅に進展。「ダウンサイドリスク限定戦略」「柔軟な資産配分変更戦略」「フィデュシャリー・マネジメント」といった運用戦略を採用する年金基金も増えている。

 こうした動きに対してJPモルガン・アセット・マネジメントでは、市場見通しに応じて、国債だけでなく、ハイイールド債券、新興国債券、投資適格社債、MBSやABSなどの債券の配分比率を機動的に変え、デュレーションを調整する『グローバル・ストラテジックボンド』という運用戦略を提案している。「市場環境が変化するタームは短期化しており、これまでのような定期的なポートフォリオの見直しでは対応し切れなくなっている。ポートフォリオの一部に市場の動きに合わせて資産配分を変える手法を組み入れるのも手だろう」と機関投資家営業部部長の下山佳之氏はいう。

リスクのオンオフの切り替えが早い
オルタナティブで環境変化に対応

 「厳しさを増す市場環境を背景に『静態的アセットアロケーション』偏重からの脱却も進んでいる」と話すのは、BFCアセットマネジメント代表取締役会長の川名教之氏だ。静態的なアセットアロケーションに代わって、リスク量をモニタリングしリスク量を抑制したり、あるいはダイナミックヘッジなどの運用戦略を駆使して損失を抑える動態的なポートフォリオ管理が注目されている。

 オルタナティブの比率を一層拡大する傾向もある。とくに次の6つの動きが注目されている。

①伝統的資産と相関関係の低いグローバル・マクロ戦略、マネージド・フューチャーズ戦略などのヘッジファンド投資
②株式下落のリスクを回避する株式ロング・ショート投資
③インカムゲイン重視のインフラ、不動産、保険商品投資
④対象企業の将来性に期待するプライベートエクイティ、ディストレスト投資
⑤価格のゆがみ(ミスプライス)を収益源とするレラティブ・バリュー投資
⑥複数の投資戦略を組み合わせるマルチストラテジー投資

 「目まぐるしくリスクのオンオフが切り替わる昨今、相場の方向性に機敏に対応する株式のロング・ショート投資やグローバル・マクロ戦略などの投資手法が注目されている。その一方でヘッジファンドに偏り過ぎるのも問題なので、インカムゲイン重視でインフラ、不動産、保険商品投資という新しい投資対象を組み入れる傾向も出始めている」と川名氏は説明する。

 「年金制度の持続性」も年金運用を考えるうえで重要なキーワードである。各年金基金ではダウンサイドリスクの抑制や、給付財源を確保する部分と収益追求部分でそれぞれ異なる運用目標利回りを設定することなどで、年金制度の持続性を高めている。

 「年金運用のトレンドは、サブプライムローン問題とリーマン・ショックをきっかけに方向性が変わった。100年に1回といわれる危機が相次いで発生したことで、下方リスクをコントロールすべきという発想が生まれた」と川名氏。国内外の株式や債券という4つの伝統的資産以外に、5つ目の資産としてクローズアップされているオルタナティブ、ダイナミックヘッジやタクティカルアセットアロケーションなどの戦略を使った動態的なポートフォリオ構築・運営へと、短期化する市場環境の変化を乗り越えようと模索している。

Part 2 プラスアルファの確保 運用機関の選択と組み合わせ

“アルファ”に着目した運用戦略
リスクと管理・運営体制にも目配り

 世界で8400もの運用商品と運用機関調査を手がけるラッセル・インベストメントは、今の機関投資家のポートフォリオ戦略をどのように見ているのか。同社のクライアント・サービス本部ディレクター、三木威氏は「リーマン・ショック以降、これまでのセオリーに当てはまらない運用機関選定をするケースが増えている。過去の運用実績が悪かった運用機関を減らし、良かった運用機関を増やすという従来の一般的なプロセスでは対応し切れなくなっている」と指摘する。

 そこで重要になるのが「どのような運用機関を選び、いかに組み合わせるか」(三木氏)だ。アセットクラスそのもののリターンである“ベータ”が運用に与える影響は大きいものの、「運用機関の優劣で左右されるアルファをどのように確保していけばいいのかという課題が従来以上に重要になっている」と言及する。

 運用機関選定の対象範囲を広げることは、こうした課題に対するソリューションの第一歩だが、優秀な海外のファンドマネージャーがいたとしても、必ず採用できるとは限らない。日本で採用できるファンドマネージャーは限られている。

 「例えば外国株式のケースでは、当社の調査対象運用商品数はおよそ900。このうち当社の格付け評価が行われた運用商品数は約90、さらにお客様に推奨できる運用商品となるとわずか33にまで絞られる。推奨した33の運用商品のなかで、日本の運用機関が取り扱っているのが10ほど。20以上の運用商品は採用することができないのが現状だ」とラッセル・インベストメントのインベストメント・マネジメント&リサーチ部ポートフォリオマネージャーの中川裕之氏は打ち明ける。

 こうした運用商品を採用することができるのが同社の強みだ。「これらの運用商品をただ単に組み合わせるのではなく、全体のリスクがどのようになっているのかを確認しながら、意図しないリスクを抑えたポートフォリオをお客様に提供している」(中川氏)

 AIJ投資顧問による年金資金消失事件で、運用機関のガバナンスや管理体制が注目されている。「当社の付加価値の一つが運用機関の選定だが、運用能力の高さと実際に資金を預けても安心なのかはイコールではない。運用能力の高さを測る調査チームに加え、当社では対象運用機関のオペレーションやコンプライアンス体制をつぶさに調査するチームがある。このような視点を運用能力評価にプラスアルファした運用機関の選定が他社との差別化になっている」と三木氏は語る。

Part 3 年金基金の試行錯誤 政策アセットミックスの見直し

ボラティリティの抑制を目指す
求められる運用知識の高さ

 投資判断が難しい状況が続くこの時期、企業年金基金はどのような運用を行っているのか。アステラス企業年金基金の政策アセットミックスは、国内債券が35%、国内株式と外国株式がそれぞれ16%、外国債券が7%、一般勘定が14%、残りの12%がオルタナティブとなっている(図表2)。そのうちの半分がアルファ狙いのヘッジファンド、もう半分がベータを分散して確保するために私募不動産やプライベートエクイティを組み入れている。

 政策アセットミックスの目的は、中長期的に目標リターンを確保することであるが、リーマン・ショックなどのような急落局面の影響を極力抑えることも重要だ。「とにかくボラティリティを押さえ込むことを一番重視した」とアステラス企業年金基金の常務理事、田島一郎氏は話す。

 オルタナティブを初めて組み入れたのは2004年。基本的に財政再計算のタイミングに合わせて政策アセットミックスを見直した2011年に、国内株式と外国株式の比率を18%から16%にそれぞれ引き下げ、その代わりにオルタナティブと国内債券の比率を2ポイントずつ引き上げた。また、下方リスクの抑制に強みを持つ最小分散型投資と、株式を先物でヘッジするダイナミックヘッジなどを組み入れているのも同年金基金の特徴である。

 東武流通企業年金基金の政策アセットミックスはどうか。2010年から2011年度の比率は国内債券54%、国内株式15%、外国債券4%、外国株式15%、オルタナティブ12%。これを2012年度には国内株式を7%に落とし、オルタナティブを8ポイント増やして20%にした(図表3)。

 同年金基金のコンセプトは、安定した運用だ。振れ幅の大きい内外株式を減少させると同時にホームカントリーバイアスの修正を図っている。「2007年から2009年度まで26.4%もあった国内株式の比率を7%まで減らした。今の運用環境下ではキャピタルゲインにはあまり期待できない。それよりもインカムゲインを重視した方が安定的な運用ができると考え、オルタナティブ部分にCATボンド(大災害債券)とインフラデット戦略を加えた」と説明するのは、同年金基金の運用を担当する顧問の高橋右行氏。

 地震や台風などの自然災害による損失リスクを回避する仕組みのCATボンドと、インフラ事業を手がける企業に出資し、収益を得るインフラデット戦略によるインカムゲインで給付資金の確保を目指している。

 リスクの軽減を重視した政策アセットミックスを構築しているのは、日立国際電気企業年金基金である。2008年10月から2012年3月までは国内債券35%、国内株式21%、外国債券13%、外国株式21%、オルタナティブ10%という比率だった。2012年4月の変更によって国内債券を39%、オルタナティブを23%に増やし、国内株式を10%、外国株式を16%に引き下げた(図表4)。

 同年金基金の運用執行理事、佐倉和明氏は政策アセットミックスの見直しの理由を次のように語る。「リスクの抑制を重視しているものの、3.5%の予定利率を達成するためにある程度の収益を確保するとなると、現在の市場環境ではオルタナティブに目を向けるしかない。以前のポートフォリオでは国内外の株式は42%の比率だったが、ポートフォリオ全体のリスクの8割も占めていたことから比率を大きく縮小した。しかし、成長が期待できる新興国株式は別。これまではまとめて外国株式として投資してきたが、新興国株式と明確に分類して投資することにした」

 かつては国内外株式と債券という伝統的4資産に投資するだけで、違いといえば資産配分だけというのが当たり前だった年金運用。市場環境が目まぐるしく変わるなか、これまで以上に高い運用の知識が求められている。それぞれの企業年金基金の運用担当者は、どのようにして情報に触れ、リテラシーを高めているのだろうか。

 東武流通企業年金基金の高橋氏と日立国際電気企業年金基金の佐倉氏はともにセミナーや勉強会などの参加を挙げる。他の年金基金の運用担当者と交流することで、年金運用に関する情報が得られる可能性もある。また、「年金情報誌などで紹介されている他の年金基金の商品採用状況は参考にしている」(高橋氏)や、「各基金によって立場が異なるので情報は鵜呑みにはできない。あくまでも参考」(佐倉氏)という意見もある。

 アステラス企業年金基金の田島氏は、「運用機関などの担当者に対して原則、門戸を広く開き、情報を極力オープンに話すこと。それによって先方へこちらの意図が伝わると同時に、相互に信頼関係を深めることによって適した運用商品を提案してくれるようになる」と話す。

 運用機関であるBFCアセットマネジメントの川名氏は「信託銀行やコンサルタントにすべて丸投げするのではなく、自分たちでポートフォリオの構築・運営に当事者として責任感を持つことが大切だ。コンサルタントや運用機関などを利用して、運用に役立つ各種情報を引っ張り出す。過去の運用実績を見る定量評価だけでなく、運用機関の運用方針、運用体制、各種リスク管理体制などの定性評価も重要だ」とアドバイスする。

 不透明感が漂う投資環境のなか、従来のポートフォリオ戦略が袋小路にはまっている。新たなポートフォリオ戦略によって果たして袋小路から抜け出せるのか。年金基金の試行錯誤は続いていくだろう。