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テールリスクに備えた新しい投資戦略を

J-MONEY2012年冬号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

時価総額加重ベンチマークに限界
テールリスクに備えた新しい投資戦略を

「長期に保有していれば株式はいつかは上がる」という神話は崩壊したようだ。右肩上がりで経済が成長する時代は終わったとはいうものの、いまだ成長幻想を信じて旧来の運用手法にこだわり続けている投資家が少なくない。運用成果の基準となっているベンチマークそのものへの懐疑論も広がっている。突発的な経済危機や自然災害など、確率論的に起こる可能性がきわめて低い「テールリスク」が起きる可能性がある今、機関投資家のポートフォリオ戦略は根本的に見直しする時期に来ている。(笠原崇寛)

集中投資や最小分散、ヘッジファンドに注目

 「これは何のチャートでしょうか?」(図表1)。野村證券フィデューシャリー・サービス研究センターのフィデューシャリー・マネジメント部長、荻島誠治氏は運用機関向けのセミナーで、こう切り出した。答えはTOPIX(東証株価指数)の推移。15年間、日本株に投資し続けたとしても年平均でマイナス3%の成績だ。

 下がり続ける日本株のベンチマーク= TOPIXよりパフォーマンスが上回ったところで、運用成績は改善できない。同研究センターの調べによると、TOPIXをベンチマークとする評価の高い日本株アクティブ運用の11ファンドを調べてみたら、過去3年の超過リターンは平均で約2.11%となっている。

 「評価期間のTOPIXのリターンはマイナス12%。超過リターンがプラスでも絶対リターンはマイナスだ。ベンチマークに勝てばいいという発想では、α(超過リターン)があっても運用成績は悪化の一途をたどるだけ。ベンチマークそのものを見直し、これまでとは違った株式の運用戦略が必要だ」と荻島氏。

 日本株をはじめ、株式のベンチマークとして使われている指数の多くは時価総額加重ベースで算出されているが、これがそもそも問題だと指摘する声が増えている。

 ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSgA)のプロダクト・エンジニアリング・チームヘッド、志村徹郎氏は、「時価総額加重ベースのインデックスの場合、大型株や人気株など時価総額の多い銘柄に投資ウエイトが偏ってしまう。人気株は投資家の成長期待が高く、買われ続けて高騰しやすい半面、その期待が裏切られると、失望から売り浴びせられて大きな下落につながる。企業業績と異なる株価形成が行われやすく、時価総額加重ベースのインデックスではリスクに見合ったリターンが得られにくくなる」と分析する。

 従来のベンチマークに依存している限り、株式での大きな運用成果は見込めない。野村證券の荻島氏は、日本株のパフォーマンスを向上させる運用手法として、①集中投資、②最小分散ポートフォリオ、③時価総額加重以外の戦略、④株式ロングショート戦略やグローバルマクロ戦略などのヘッジファンド──の4つを提案する。それぞれの戦略について荻島氏は次のように解説する。

① 集中投資:1997年から15年間のTOPIXのリターンはマイナス50.5%。しかし同期間でプラスのリターンになったのは178銘柄、全体の17%もある。さらにトップ15銘柄は15年間年平均6%のリターンを実現している。従来のインデックス運用やアクティブ運用ではなく、銘柄選別による集中投資なら、日本株でも絶対リターンが見込める。

②最小分散ポートフォリオ:ボラティリティ(変動率)の低い銘柄の方が将来リターンが高いという現象が見受けられる。低ボラティリティ銘柄に投資する最小分散ポートフォリオなら、リスクを抑えてリターンを高める効果が期待できる。

③時価総額加重以外の戦略:TOPIXなど時価総額加重ベースのインデックス投資に比べて、最小分散ポートフォリオ、等金額投資、ファンダメンタル・インデックスなどの方がシャープ・レシオ(リスク1単位あたりのリターン)が高まる傾向にある。さまざまな戦略を組み合わせればリターンを改善できる可能性が高い。

④株式ロングショート戦略やグローバルマクロ戦略などのヘッジファンド:株式の下振れリスクを抑制するには、買いだけではなく売りも行う株式ロングショート戦略が有効だ。リスク水準は高いが、通常の株式リスクと比べてそれほど高いわけでもない。株式上昇局面においても一定程度、市場リターンに追随できる。

 市場の価格形成の歪みやトレンドを投資機会に収益を追求するグローバルマクロ戦略もダウンサイドリスクの軽減に役立つ。この戦略は過去10年間で、5%以上のドローダウン(最高値からの下落率)になったのは2008年の金融危機のみ。こうした戦略を行っているヘッジファンドを取り入れるのは有効だ。オルタナティブではなく株式のアセットクラス内として位置づけてもいい。ただしヘッジファンド間のパフォーマンス格差は大きいので、ファンド選択は慎重に行う必要がある。

 以上の4つの戦略は日本株のみならず世界株にもあてはまるという。「2011年度上期の運用成績は株式全滅といってもいい状況だ(図表2)。このような市場環境がこの先も起きる可能性がある。これまでのポートフォリオ戦略を見直し、上記4つの戦略を複合的に組み合わせれば、株式のアセットクラスのパフォーマンスを向上させることができるはず」と荻島氏は語る(図表3)。

エマージング株式の最小分散ポートフォリオ戦略

 機関投資家が株式のリターンを上げるために、近年積極的に取り入れているのがエマージング株式だ。しかし2011年度上期のリターンはマイナス28.64%と悪化した(図表2)。ボラティリティの高さが最大の難点だが、エマージング株式も従来の時価総額加重インデックスでの投資ではなく、最小分散戦略で投資した方が、リスクを抑えてリターンを向上させるとの指摘もある。

 最小分散ポートフォリオ戦略のファンドを提供しているSSgAによると、時価総額加重インデックスであるMSCIエマージング指数とエマージング株式の最小分散戦略を比べると、市場急落時に大きな差が出るという。

 「2007年度末の運用資産を100とした場合、MSCIエマージング指数は2008年度末に53.1まで減少し、2009年度末には96.4まで回復するが、100には戻らない。一方、最小分散は2008年度末に62.2で、MSCIエマージング指数より負けが少ない分、2009年度末には102.9となり、元本以上の回復ができる。最小分散でダウンサイドリスクを抑制すれば回復時に複利効果が効き、時価総額加重インデックスより高い投資効率の実現が期待できる」(SSgAの志村氏)

 今後も金融危機のような市場の急落局面が起きるリスクが想定されるが、こうしたテールリスク(発生確率は高くないが起こると影響が甚大なリスク)に対しても、最小分散戦略により負け幅を小さくしておけば、リカバリーも早くなる。

 志村氏は「時価総額加重インデックスを中心に据えた効率的フロンティアから離れれば、従来ではあり得ないはずのリスク・リターンプロファイル(領域)に踏み込める可能性が生まれる」と話す。

 1999年2月から2010年4月までのリスク・リターンをシミュレーションすると、MSCIエマージング指数はリターン14.5%、リスク24.7%に対して、エマージング株式最小分散ポートフォリオはリターン19.9%、リスク16.5%となる。最小分散ならリスクを下げて、かつ、リターンを向上させることができるのだ。

 リスクが高いからといってリターンが高いとは限らない。これまでの「投資の常識」が揺らいでいる。

見直されるヘッジファンドリスク管理をシビアに行う

 金融危機時に思ったような運用成績が上げられなかったため、機関投資家からやや敬遠気味だったヘッジファンドだが、最近は再び注目されている。ヘッジファンドのゲートキーパー(仲介役)としてさまざまなファンドを紹介しているBFCアセットマネジメントの代表取締役会長、川名教之氏は、「直近のヘッジファンド全体の運用成績はマイナス4%程度と言われているが、7 ~ 10%程度のリターンを上げるヘッジファンドはざらにあり、投資家の関心はむしろ高まっている」と答える。

 「今の市場環境下で、長期保有前提のバイ・アンド・ホールド(Buy and Hold)で運用するのは危険なギャンブルといえる。長期の見通しは誰にもわからないが、短期の値動きならある程度は機敏に対応できるはず。株が下がりそうなら売らなければならない。積極的に売りを行う日本株のロングショート戦略のヘッジファンドはかなりいい成績を収めている」(川名氏)

 野村證券フィデューシャリー・サービス研究センターの荻島氏の話にもあった通り、グローバルマクロ戦略のヘッジファンドも好調だ。川名氏によると「もうこれ以上は資金を受けつけないというほど、人気となっているファンドも多い」ようだ。

 「最近のグローバルマクロ戦略のヘッジファンドは昔と違い、ファンドマネージャーとリスクマネージャーの分離がはっきりしている。1人のカリスママネージャーの勘だけで暴走することは少なく、リスク管理が厳格に行われているのが特徴だ。リターンは制御できないがリスクはコントロールできる。20%以上もの高収益を狙うヘッジファンドよりも、市場急落時にマイナス幅を抑制できるヘッジファンドが好まれる傾向にある」(川名氏)

 リーマン・ショックという荒波を経て生き残ったヘッジファンドは、投資家のニーズに応え、情報開示など透明性にも配慮するようになった。以前より年金基金などが投資しやすくなっている。「伝統資産だけではリターンは望めず、ヘッジファンドやPE(プライベート・エクイティ)、インフラファンドなど、オルタナティブ投資の関心はますます高まっている」と川名氏は話す。

 JPモルガン・アセット・マネジメントの常務執行役員、三浦英二氏は、インフラファンドについて、「リクイディティ(流動性)に一定の制約はあるものの、米国、欧州、豪州と先進国を幅広くカバーし、さまざまなインフラを組み入れているため、地域的にも、種類的にも分散が効き、安定的なキャッシュフローを見込めるのが最大の魅力だ。年金基金など、長期の投資家には向いているのではないか」と語る。

 オルタナティブ投資の流れでは、金をポートフォリオに組み入れる機関投資家も増えてきた。「伝統資産と相関性が低い金をポートフォリオに3-5%程度組み込むだけで、リスクを抑えてリターンを高める効果が期待できる」と三菱UFJ信託銀行のフロンティア戦略企画部長、星治氏は説明する。さらなる分散を図るためにオルタナティブ投資の対象も広がってきている。

エマージング債券など債券投資の多様化が進む

 株式のパフォーマンスを向上させるためには新たな戦略が必要だが、そこまで踏み込めない投資家も多い。ポートフォリオのなかでリスクの高い株式を減らして、他のアセットクラスに振り向ける流れは、金融危機以降、現在も続いている。その受け皿の筆頭が債券だ。ただし、リターンが低いことや欧州債務危機の影響から「先進国の国債に投資することが安全なのか」といった疑念の声も出始め、見直しが迫られている。

 債券のなかで注目されているのがエマージング債券だ。JPモルガン・アセット・マネジメントの投資戦略ソリューション室長、鈴木英典氏は「先進国の国債は格付けが下がる一方、エマージング債券の格付けは年々上がっている。ドル建てではなく現地通貨建ての商品もあり、魅力的な利回りはもちろん、今後の通貨高による為替差益も狙える。リターンを向上させる有望な投資先の1つとして定着してきた」と指摘する。

 高いリターンが期待できる債券として、米国のバンクローン(銀行貸付債権)に投資する商品も注目されている。「クレジット(信用)リスクを確認する必要はあるが、基本的には担保付の商品なので、相当程度リスクをヘッジできる。安定的なキャッシュフローが魅力だが、変動金利の商品なので、金利上昇やインフレリスクのヘッジ手段としても使える」(鈴木氏)

 一方、三浦氏は「債券の投資対象は近年広がっており、債券の資産内での分散投資が進んでいる」と分析する。

 債券のリターンを向上させるために、外国債券にコモディティを加えた「インカム・プラス」戦略を提供しているのがバークレイズ・キャピタル証券だ。グループ内の運用会社バークレイズ・キャピタル・ファンド・ソリューションズ・ジャパンと連携し、機関投資家などにこの戦略を紹介している。

 「資産の7割を米国10年物国債か米国物価連動債、残りの3割を農作物・貴金属・産業用金属・エネルギーの4つのコモディティセクターインデックスと短期債券で運用する。クレジットリスクを極力排除して、金利上昇時の戦略全体の抵抗力を確保すべくコモディティへの資産配分を必要に応じて行う設計だ。2007年の運用開始から2011年12月末までのパフォーマンスは円ヘッジ後で年率7.3%と安定したリターンを獲得している」(バークレイズ・キャピタル・ファンド・ソリューションズ・ジャパンの代表取締役、岩居雅彦氏)

 「このほか、安定収益確保の観点から米国のジニーメイ(連邦政府抵当金庫)債のトータルリターンに連動したパフォーマンスを提供する戦略や、VIX指数を活用した外国株式の下落リスクヘッジ戦略なども興味をもたれるお客様が多い」という。

 バークレイズ・キャピタル証券の戦略投資営業部ディレクター、今井貴志氏は、「年金基金の多くは、一度決めたポートフォリオの資産配分割合を急に変更するのは難しい。そこで各アセットクラスの枠組みのなかで絶対リターンを追求する戦略やリスク抑制を目指した戦略は取り入れやすい」とアドバイスする。

一定のリスクは取るべき 新しい市場環境に合わせた運用手法を

 投資家のリスク許容度は下がったままで、保守的な運用から抜け出せない投資家も多いが、「一定のリスクは取るべきだ」とJPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木氏は話す。「無理なリスク、わからないリスクを取る必要はない。しかしリスクを恐れてばかりいたら目標リターンは実現できない。伝統資産内でリスク特性が違う商品や、オルタナティブ投資など、さらなる分散を進めていく必要がある」

 従来の運用の枠組みでは現状の市場環境を乗り切ることは難しくなっている。野村證券フィデューシャリー・サービス研究センターの荻島氏は、これまでの運用手法を根本的に変えなければならないとして、3つの「脱」戦略を提案する。「収益追求ベンチマークを取り入れた『脱・従来型ベンチマーク』、テールリスクなど悲観シナリオを導入した『脱・最適化』、市場環境に応じてポートフォリオを変えていく『脱・静態的資産管理』が必要だ」

 これまでの投資の常識が通用しにくくなっている昨今、新しい市場環境に合わせた運用手法が求められているのではないだろうか。